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「ピロボール」って何? 本気で走るなら効果絶大なのに純正採用されない理由とは

BLITZのピロボール式アッパーマウントのイメージ

市販車とサーキット車の目立たないけど大きな違い

 サスペンションの可動部をクルマに取りつける部分に使われるパーツ「サスペンションブッシュ」は、市販車ではほとんどがゴム製だ。それに対してレースカーやサーキットを本格的に走るクルマは金属のボールを使った「ピロボール」が一般的となっている。このピロボールのメリットはどこにあるのだろうか。

足まわりの関節部をゴムから金属に変えて正確性アップ

 サスペンションアームは金属だが、そのボディ側もタイヤ側もどちらもゴムブッシュが使われているのが一般的だ。その理由は、ゴムが異音や振動などを吸収してくれるから。

 対して、レーシングカーでは金属ボールをわずかなクリアランスで金属が保持するピロボールが使われている。その理由は、ゴムブッシュのような曖昧さがないからだ。ゴムブッシュは良い意味でルーズさがあり、荷重の変化などによってブッシュが潰れてアライメントが変化する。金属製のピロボールでは変化量がほぼないので、アライメントが意図せぬ変化をしないのだ。

ビギナーにも安心感と乗り心地アップをもたらしてくれる

 ゴムブッシュだと、コーナリング時にはキャンバー角が立ってきたり、トーが変わってしまったりする。でも、純正の足まわりでは、それも含めてハンドリングの味付けがされている。意図的にブッシュの硬度を変えたり、厚みをコントロールして、わざとアライメント変化が起きるようにしてあるのだ。

 ところがサーキットのような状況では、そういった変化はドライバーが不安を覚えやすい。サスペンションは硬く引き締めていても、どことなくグニャッとする感触をドライバーは感じ取り、攻めきれないこともある。

 さらに、じつはビギナーほど、そのアライメント変化を感じ取っていることもある。なんとなく怖い、不安になる、という人ほどブッシュをピロボールにすると、安心して走れてしまうこともよくあるのだ。

 ピロボール化のもうひとつのメリットとして、乗り心地が良くなることも挙げられる。サスペンションに入力される衝撃は、通常はゴムブッシュでも吸収し、サスペンションでも吸収する。ピロボールだとそこでは衝撃は吸収しないので、サスペンションだけが吸収する。そうなるとサスペンションへの入力が増えるため、サスペンションの抵抗などを感じにくくなる。いわゆるフリクションという乗り心地を悪くする抵抗力を、超えるくらいの力がいつも入力されるようになるので、サスペンションはそのままでも乗り心地がよくなるのだ。

走りにこだわるクルマでは純正で採用されることも

 そんな良いことだらけのピロボールだが、もちろんデメリットがあるから純正採用されることが少ない。それは寿命だ。金属同士が支え合うのでどうしても摩耗によって減ってきてしまう。そうなるとクリアランスが広くなり、ガタが出やすい。また、汚れを噛み込んで異常摩耗してしまうこともあるのだ。

 レーシングカーでは定期交換が前提だし、走行後は圧縮空気でピロボールに噛んだゴミを飛ばして清掃する。そういったこまめなメンテナンスをしつつ、定期交換のサイクルも短いパーツなのでノーマルには採用されにくいのである。

 それでも、過去にはランエボが純正アームにピロボールを採用し、ゴミが入らないようにその周囲にゴムカバーを付けていた例もあり、走りにこだわるクルマでは時おり採用されている。

 なお足まわりのチューニングは車検には注意が必要で、ロアアームなどを交換すると事前に申請が必要になる。しかし、純正アームのブッシュをピロボールにするのは不問。なんならTRDやSTIからは純正アームにピロボールを打ち込んだアームを販売しているほどだ。価格も5万円ほどと、純正アームにピロボールを打ち込む工賃を考えたらお得な値段だ。

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 ピロボールの寿命は一概には言えないが、10年使うようなものではない。走る量や降雪地帯かどうかにもよるが、4~5年ごとにはピロボールの交換が必要になるイメージだが、それを上まわるメリットは十分にあるチューニングパーツといえる。

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