「スペクター」が鋭意走行テスト中
チャールズ・スチュアート・ロールスによって1902年に創立されたロールス社。そしてフレデリック・ヘンリー・ロイスが1884年に設立したロイス社。この両社がロールス・ロイス社として新たな歴史を刻み始めたのは1904年のこと。そのロールス・ロイスが今、まさに大きな変革期を迎えようとしている。それは同社にとって初となるBEV(バッテリーEV)の誕生である。その第1弾モデルとして、現在250万kmにも及ぶ走行テストプログラムを継続中なのが、「スペクター」と呼ばれるプロトタイプだ。
本当はBEVと相性がいいロールス・ロイス
ロールス・ロイスといえば、もちろんこれまでは内燃機関を用いた超高級車のハイエンドを定義することで世界中のカスタマーから高い評価を得てきたブランドであることは良く知られているとおりだが、じつは彼らの歴史において電動化は、あながち馴染みがないものではない。
創始者の一人であるフレデリック・ヘンリー・ロイスは、そもそものキャリアのスタートは電気技師であったし、エンジン開発の哲学には常に、静粛な走行や瞬時に得られるトルク、無段階のギヤ感覚など、電気自動車の特性を意識することを大きな目的としてきた。
そして、「電気自動車は完全に無騒音でありクリーンな乗り物だ。匂いも振動もない。充電スタンドさえできれば非常に便利な移動の手段になるだろう」と1900年にはすでに予言していいたという。その予言は1世紀以上の時を経て、スペクターとして現実のものに近づきつつある、デザインスタディの「102X」、「103X」というモデルを経て。
これらのスタディモデルが、ロールス・ロイスの未来を担うBEVに完璧にフィットするという好印象を得たカスタマーからの評価を背景に、ここでロールス・ロイス社のCEO、トルステン・ミュラー・エトヴェシュは明確な約束をカスタマーと結んだ。それは2030年までにロールス・ロイスは完全な電気自動車メーカーになるというもの。そして2021年9月、今回テスト走行の様子が公開されたスペクターの存在が明らかにされたのだ。
スペクターのテストプログラムは、2022年初め北極圏からわずか55kmという位置にあるスウェーデンのアリエプローグにある特設のテストコースから始まった。テスト・エンジニアにとって、この場での最も重要なプログラムは、極低温という極限状態でもきちんとバッテリーが作動するかどうか等々を確認すること。その後はフランスのリビエラに本拠地を移し、ここではさまざまなシーンで約62万5000kmがテストされる予定だという。