徹底的にコストを掛けた最後のメルセデス
ステーションワゴンブームの最右翼として神格化されたS124だが、人気の理由は扱いやすいボディサイズが大きく影響している。当時「小ベンツ」と呼ばれた190シリーズ(W201)と比べると堂々とした存在感があり、上位機種のSクラス(W126)のように大きさを持て余すこともない。
とくに日本の道路事情において全長4765mm×全幅1740mm×全高1490mmというサイズは、快適に取り回せる最大限の大きさであり、その快適さに加えてメルセデス・ベンツとしてのステイタスを発揮してくれるのだから人気にならない理由は見つからない。さらにTEと呼ばれるステーションワゴンにはラゲッジルームに床下格納式のシートが用意され、当時の日本では珍しい7人乗りというオマケまで付いていたのである。
実際にS124をドライブしてみると、現代のドイツ車よりも「硬い」という印象が強い。これはゴツゴツというネガティブなものではなく、乗り手に対して安心感を与えるものだ。ステアリング径自体は大きいのだが、舵角に対してリニアに反応しながらも神経質過ぎない安定感を発揮してくれる。乗り心地も硬めではあるものの不快感は微塵もなく、高速道路では速度無制限のアウトバーンで鍛えられたハイレベルな走りを披露する。エンジンは初期モデルの300TE(最高出力185ps)、後期モデルの320TE(最高出力225ps)ともに驚くようなパワーを発揮することはないが、6気筒らしいスムースさと扱いやすさが大きな特徴だ。
また、しっかりとした芯があり反発力のあるシートは長距離の移動では腰に負担が掛からず、現代のソフトなシートよりも好感が持てる。このS124は量産メーカーへと舵を切る以前の「メルセデス・ベンツ」そのものであり、ステーションワゴンとして設えたラゲッジルームはレジャーを意識した人たちにとって大きなアドバンテージになったことは間違いない。さらにスリーポインテッドスターの威厳が加わるのだから、欲しがる人が後を絶たなかったことは言わずもがな。当時、カメラマンやファッション関係の業界人たちに寵愛され、撮影現場で数多くのS124に遭遇したことを思い出す。
37年経った今も色褪せないドイツ車の哲学が凝縮
生産中止から長い時間を経た今も、テレビCMやファッション雑誌の背景に佇むように登場することもあり、おしゃれ系の若者が憧れる存在として神格化されているS124。現代のレベルでは決して高性能というわけではないが、「最後のメルセデス・ベンツ」と呼ばれる存在感は今も変わることはない。
ただし、1985年の初登場からすでに37年の歳月が流れていることもあり、手に入れたとしても維持していくのは簡単ではない。ボディやエンジンのコンディションはもちろんだが、弱点であるエンジンマウントやデフマウント、足まわりのブッシュ類、プロペラシャフトのディスクジョイント、経年劣化したラジエータ、紫外線に弱くひび割れを起こしてしまうダッシュボードなど、快調に走るためには数多くのリフレッシュが必要になることを覚えておこう。
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S124を本気で手に入れたいと願うのなら、価格で飛びついてしまうのは決して賢明な行為ではない。だが、コンディションの良いS124に巡り合えたのなら、それは大きな幸運であり、ドイツの自動車哲学が凝縮された古き良き時代へとタイムスリップできることは間違いない。