「クレンツェ」の歴史はチャレンジの繰り返しだ
スポーツカーからSUV、ミニバン、セダン、軽自動車まで、あらゆるタイプのクルマの足元を個性的に演出しているウェッズのカスタムホイール。こうした幅広いジャンルでそれぞれに受け入れられるデザインを生み出していく秘訣は、カスタマーのニーズをいち早くキャッチしてデザインに落とし込み製品化していく「マーケットイン方式」を確立しているからだ。それもカスタマーが求めているものだけではなく、半歩先行く未知のデザインのホイールを提示することで、常に独自の地位をキープしているのがウェッズである。そこで、流行の入れ替わりが激しい「VIP」の世界で、「クレンツェ」ブランドがいかにチャレンジングなオリジナルの世界観を作りあげてきたか、2010年以降のモデル変遷から紐解いてみよう。ナビゲーターは、最も「クレンツェ」を身近に見てきた『VIPスタイル』だ。
2010年:MAGISS_マジス
ベールを脱いだ、美し過ぎるホイール
美し過ぎるホイール。果たしてこれほどまでに、美しい必要はあるのか。真っ白なベールを剥ぎ取ったクレンツェ マジスを目の前にすると、思わず、そんな戯れ言を口にしたくなるほど美しく感じたことを、昨日のように思い出す。
マジスの見所は、どれかひとつに限定することは不可能。比較的鋳造ホイールは凝ったカタチにできるというのは知られているが、とは言え、鋳造にだって限界はある。そして、たぶん、このマジスがその限界だろう。センター、スポーク、サブスポークなど、ありとあらゆる部分にクレンツェらしい凝りに凝ったデザインが与えられている。
製作時、大切にしたキーワードのひとつが足長感だ。ナットホールの内側にまでスポークは攻め込み、これ以上はないほどのスラリとした美脚を披露。特に天面をポリッシュ加工した細身のスポークは、うっとりするほど軽やかにリムへと伸びていく。
そして、ねじり。クレンツェでは名作バスレイア以降、ヴィシュヌ・グロッサ・クリシュナで、立て続けにデザインにねじりを取り入れ、もはや、ねじりはクレンツェの代名詞になっていた。もちろん、マジスもこのねじりを継承。しかも、過去最大のねじりを投入することで、立体感、そして躍動感はクレンツェ史上最高と言ってよい仕上がりになった。オススメはSBCポリッシュだ。見る角度によって光の反射が異なり、印象がクルクルと様変わりする。マジスの良さを引き出す色だ。
2011年:ELABORAR_エルアボラ
名作・マジスをいかにして超えるか
デビュー早々、大ヒットを飛ばしたマジス。だからこそ、エルアボラの開発チームが掲げた裏テーマは「マジス超え」だった。そのための鍵は「強いこだわり」にあると確信して開発された。ゆえに、こだわりを表すスペイン語の“エルアボラ”と名付けたのだ。超複雑な10本ツインモデルは、そのこだわりが凝縮していると言っていい。そして、初めてピアスボルトの周りにもデザインを入れたモデルでもある。この一点だけでも、エルアボラにかける思いが伝わるだろう。
2012年:CERBERUS III_ケルベロス スリー
まさかの復活にクレンツェ ファンが涙した逸品
これだからクレンツェは堪らない──そんな風にファンを沸かせたのが、ケルベロスIIIである。前作となるケルベロスIIから10年の時を経て復活という演出が最高であった。デザインは当時の面影を生かしつつも、天面ポリッシュという最新技術を投入し、全く新しい表情をみせることに成功した。しかも、オーナメントもケルベロスに戻した点がファン心理をよく理解していた。立体的で贅沢なデザイン。クレンツェにとって、ケルベロスが特別であることがよく分かる。
2013年:VERAE_ヴェラーエ
カラーリングでも攻めの姿勢を追求
まるで生き物のような威圧感を漂わせるデザインで話題を呼んだ。このヴェラーエに与えられた新色・ブラックポリッシュ/ブロンズクリアという色も、得体の知れない雰囲気を醸し出すのにひと役買っていた。スポークやリムなど全ての部分をデザインした究極のモデル。スポークの側面だけでも、いくつもの複雑な面で構成されており、もはや、これを言葉で表現するのは不可能なレベル。これぞクレンツェの真骨頂である。
2014年:ACUERDO_アクエルド
細身スポークモデル全盛時代の始まり
シンプルだが、複雑なデザイン構成。このアクエルドを機に、クレンツェは細身のスポークモデルを4年連続で発表することになる。今では「クレンツェ=スポーク」と認識する人が多いが、そのきっかけを作ったのがアクエルドなのだ。「ストレートの10本」と「ひねりの10本」を融合したデザインで、センターキャップのギリギリまで追い込んだ、その攻めの姿勢もクレンツェらしい。
2015年:GRABEN_グラベン
脈々と受け継いできた3次元デザインの極致
10本スポークとも、5本ツインとも受け取れるデザイン。天面ポリッシュでメリハリをつけ、側面には摘んだようなアールが設けられている。直線と曲線を精緻に組み合わせた技巧に注目したい。2003年のボルフェスで掲げた3次元デザインを、遂にここまで進化させた。そしてクレンツェ マニアに伝えたい「こだわり」がセンターキャップだ。このグラベンから、花柄を立体的に仕様変更。ここまでやるのがクレンツェだ。
2016年:VORTEIL_ヴォルテイル
どことなく、歴代クレンツェとは異なるムード
これまでのクレンツェとは異なる雰囲気を感じさせるのが、このヴォルテイルだ。いつもなら「剛と柔」の組み合わせるデザインが定番だが、本作は全体的に柔らかいラインで構成されている。まさしくセダンに相応しい高級感が魅力だ。センター周りもアール基調でまとめ、上品なムードを醸し出しているのが分かるだろう。バルブキャップにもクレンツェのマークを投入し、プレミアム感を演出している。
2012年にケルベロス スリーで原点回帰したクレンツェだが、2014年以降は細身スポークとその派生形でさらに複雑な造形にチャレンジを続けている。特に2017年からはスポークの一部を塗り分けるなどして、同じデザインでもまったく異なる表情を見せることに成功。進化を止めないクレンツェの系譜を辿ってみよう。
2017年:FELSEN_フェルゼン
カラー推しで違いを演出したのがフェルゼン
カラーリングで他との違いを見せつけたのがフェルゼンだ。手作業によるバフ仕上げを施した「ブラック&バフ」。そして、ラメ・ビーズ入りの黒をベースにした「Gブラックポリッシュ」を投入。これまでとは違うアプローチでファンを驚かせた。2017年の東京オートサロンのブースでは、カラードリムなど、積極的に豊富なカラーバリエーションをアピールしているのが印象的だった。
2018年:WEAVAL_ウィーバル
程良く斬新さも取り入れた繊細な意匠
ナットの外側にエッジを立て、センターまわりを5角形に。斬新さを思う存分に追求していた、かつてのクレンツェを思い起こさせるデザイン。しかも選ぶカラーによって、ホイールの雰囲気が全く別モノになる、そこも個性的でクレンツェらしい。そして、初期のクレンツェとはサイズバリエーションも大きく変わった。なんとウィーバルでは22インチまで用意。ただし、13Jの深リムを設定しているのは、当時のままだ。
2019年:MARICIVE_マリシーブ
落ち着いたデザインの中に「らしさ」を投入
「太陽の光」を表すサンスクリット語を、モデル名の語源としたマリシーブ。得意の3次元的な面構成を駆使し、どの角度から見ても煌びやかに光輝く。比較的、分かりやすい10本スポークだが、クレンツェらしさは踏襲されているのが分かる。東京オートサロン2019でデビューした際は、レクサスのフラッグシップモデルであるLSに装着して展示された。LSにも決して負けない存在感、そしてクレンツェの高級感は格別だ。
2020年:SCINTILL_シンティル
クロームが最も映えるダイヤカットデザイン
クレンツェと言えば、今も昔もメッキの使い方が秀逸だ。そんな華やかなデザインクロームが文句ナシにマッチするのがシンティルだ。センター周りのダイヤカットが最大の特徴で、ピアスボルト周りの造形も、豪奢な雰囲気の演出にひと役買っている。キラキラっとした、この贅沢な感じが堪らない。広い開口部もポイントで、社外ブレーキとの相性も最高だ。
2021年:ZILDAWN_ジルドーン
他では真似のできない独特の雰囲気
前作のシンティルから一転、心を鷲掴みにする奇抜なムードを漂わせるのがジルドーンだ。3ピースの証であるピアスボルトの数も最小限にし、斬新なスポーク形状に目を向けさせる趣向が凝らされている。ここ数年のクレンツェの中で、最も冒険した作品と言っていいだろう。ロゴ入りのオーナメントからは誇らしさを感じる。スポークを繋ぐサブスポークは、他にはない凝ったデザインだ。まさしく伝統に裏打ちされた名門クレンツェの作だ。
2022年:VIERHARM_ヴィルハーム
伝統と革新、それこそが「クレンツェ」の魅力
唯一無二のブランド・クレンツェの最新にして最高傑作が、ヴィルハームだ。スポークの本数は歴代最多の20本を採用。メインとサブのスポークを絶妙に組み合わせることで、全体が美しく整い、スタイリッシュなムードを見事に生み出している。
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2回にわたってお送りしたクレンツェの軌跡はいかがだっただろうか。2002年から2022年まで、毎年リリースされた21本のホイールを俯瞰的に見れば、そこにはクレンツェの流行に左右されない革新的なデザインの潮流を感じ取ることができるだろう。これこそがクレンツェを唯一無二の存在にしている、DNA、もしくはパッションと呼ばれるものにほかならない。