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スバル「ヴィヴィオTトップ」に英国の変態紳士が熱狂! ごく「ありふれたクルマ」のコンクールとは

スバル・ヴィヴィオTトップ

高級ではないクルマたちのコンクール・デレガンス

 コロナ禍で失われた時間を取り戻そうという動きで、ひと足先んじていた英国では、復活イベントが目白押しの模様。なかでも「ハガティ・フェスティバル・オブ・ジ・アンエクセプショナル(Hagerty Festival of the Unexceptional)」は昨年に続いての開催、つまり久々の2年連続オープンで、2022年7月末にリンカーンシャーのグリムストープ城で通算第8回目が催された。

ヒストリックカー専門の保険会社がイギリスで開催

 ふつう、コンクール・デレガンスといえば「エクセプショナル(exceptional/例外的な、ケタ外れの)」なクルマが主役。つまりは稀で貴重かつ、どこどこのオークションでいくらミリオンで落札されました、といった高額車がコンディションを競うもの。だが、このコンクールは「アン」エクセプショナルと題されているとおり、非・例外的な「ありふれたクルマ」を対象にしている。歴史や時の流れに埋もれがちな、でもビミョーに貴いんじゃないの? という「ごくフツーのクルマ」にこそ参加資格が与えられるのだ。

 ヒストリックカーの価値や貴重さは落札値じゃないぜ! という風刺も多少こめられたカウンター・コンクールという訳だが、風刺一辺倒でこうも盛り上がるはずもなし。というのも「ハガティ」はヒストリックカー専門の保険会社大手なので、見逃されている価値を大真面目に発掘している側面もある。なにせ過去の流通台数と現存数は、高額ヒストリックカーの比ではないのだから。

パッとしない安グルマが綺麗に維持されている尊さ

 こういう遊びなのかビジネスなのか分からないものを、ルール化して運営するというよりちゃちゃっと仕切るのが、英国人はホントに巧い。フェスティバル・オブ・ジ・アンエクセプショナルの募集要項は、公式サイトにてFAQ形式で超フレンドリーに回答するように軽~く記されている。

 いわく、参加資格のあるクルマは1967~1997年式で、SRiグレードよりはLグレード、コスワースよりはポピュラー(フォードの下位グレードの呼称)、ロールス・ロイスよりはルノー求むで、むしろ審査員が選別するのに役立つからクルマの裏話も歓迎。ただ過去エントリー済みのクルマは他車(他者)に譲る意味で受け入れられません、子どもも犬も歓迎だけど後者にはリードを付けてね、キャンプや泊まりはダメだけどキャンピングカーもコンクール対象で、バーと食事処は立ちますよ、と。

 ちなみに入場料は20ポンドですでに完売御礼ながら、ダフ屋からは買わないでねと、保険屋らしく分別めいたこともちゃんと書いてあった。コモン・センスと紳士の国ならではの、じつにユルい仕切りである。

 かくして書類選考を通過し、「コンクール・ドゥ・オルディネール(Concours de l’Ordinaire/ザ・普通っぽさのコンクール、の意、わざわざ仏語で気取っている)」に出展エントリーが認められたのは約50台、うち22台が英国車だったとか。われわれの目にはどう見ても“オペル”アストラだが、1994年式“ヴォグゾール”アストラ・メリットも、英国カウントで含まれていると思われる。ほかにも1996年フォードKaや、1992年式フィエスタ・ファンファーレ、1995年式ローバー214SLiなど。

 それにしても、これらの妙に香ばしい90s英国車もしくはアングロサクソン・ブランド車が一堂に会するのは、まだベッカムがあか抜けないイケメンだった時代の空気感を思い出させてくれる。これらの車種のカーステが夜な夜な、英国の田舎のクラブ周辺で、どれだけスパイス・ガールズの大音量ドンツクを放っていたことか。そういう粗い/荒い乗られ方をされがちな車種だったからこそ、大事にミントの状態で手厚く扱われている事実に凛としたオーナー愛、ふたまわりぐらいした清涼なる上品さが漂うのだ。

英国ではラリーの印象が強いヴィヴィオが大賞ゲット!

 ところが90s車が眩しかったなかで、まさかのベスト・オブ・ショーをかっさらったのはほかでもない、日本車だった。今ほど欧州が衝突安全基準でカリカリしていなかった時代、2シーターFRスポーツから企画モノの匂いがするレジャービークルまで続々だった日本の「軽カー」というジャンルは、東洋の奇跡だったのだ。そのミラクル・オーラを受け継ぐ1台がスバル・ヴィヴィオ。なんと1994年から欧州でも展開していたTトップが、「(賛辞としての)マッドネス」として2022年のコンクールで優勝したのだ。

 グレープラスチックがオンパレードな内装に、ナゾの幾何学パターンのカラフルなファブリック柄、ところどころに入ったショッキングピンクのアクセントは、野村サッチーが衆院選に立候補した時代をなんとなく思い出させる。まぁ確かに日常に潜む狂気といえなくもないが、ありふれているようでブッチぎりに可笑しかった平成初期のニッポン軽カーは、ハンデの要るエクセプショナルさといったところだろう。

 いずれにせよ英国のマニアにとっては、1993年サファリ・ラリーでコリン・マクレーが駆ったハッチバックのヴィヴィオの、Tトップ仕様という認識らしい。よほどのスバラーでもない限り、おそらく忘れかけていた逸話だが、かの地でのスバル崇拝の深さに恐れ入るとともに、「マルチトップの屋根が、なぜ3分割式でTトップの中央部分まで外れるのか。その理由は開発者のみぞ知る」、そんなミステリアスさも受賞理由のようだ。

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 ニューノーマルをどう生きるとか窮屈に考えるより、何がどうなるのか分からないからこそ、そんなスリルも燃料として消費できる日常が、英国には戻っているようだ。ただし保険は忘れずにね、てなユーモアと常識交じりで。

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