デートカーとスポーツカーの二面性を持つS13/14/15シルビアの多面性とは
日産のモータースポーツ活動のなかで早くから爪痕を残したシルビアは、バブル期に発売された5代目のS13シルビア(1988年5月)が話題になることが多い。端正なフロントマスクとスポーティなスタイリング、そしてCA18型とマイチェン後に搭載されたSR20型の直4エンジンを採用。サスペンションはフロントにストラット式、リヤに先進のマルチリンク式を備え、このサスペンションがもたらす走りは、後輪駆動の優位性だけでは説明しきれないパフォーマンスを発揮した。
そして後継モデルであるS14シルビアも素晴らしいスポーツカー兼デートカーだった。
S14を最初に試乗したのは関東にあるとあるサーキット。スタッフに「意図的なドリフトは禁止です」と言われていたから先輩方は、それはもう意図的ではないドリフトで華麗な走りを披露。希望通りの限界性能をしっかりとチェックしていた。
そして自分の試乗時間が来てステアリングを握ると『なんとコントロールしやすいクルマなのか!』と感嘆。回頭性は素晴らしく抜群のトラクション性能を見せてくれたことを今でも覚えている。右足に力を入れればテールスライドがいとも簡単にできるし、アクセルを踏み過ぎてもテールハッピーになり過ぎることはなく、ステアリング操作に対する応答性もじつに滑らか。少しオーバーな表現になるが、クルマと会話ができる、まさに走らせることが愉しいクルマであった。
3ナンバー化でボディが拡大! 車両重量も大きく増量
もちろんボディが大きくなり(全長4500mm×全幅1730mm×全高1295mm※S13 K’s比:全長+30mm×全幅+40mm×全高+5mm)、さらに重たく(車両重量1250kg※S13 K’s比:+130kg)なってしまったのは事実だが、エンジン出力は220psに向上しており、シャシー&サスペンションも熟成。さらにタイヤ性能も大幅に高まり、後輪駆動の2ドアクーペとしてしっかりと進化を果たした。
ポテンシャルがアップした好印象は一般道でも変わらず。先代から引き継がれたトランプの絵札から引用したグレード名のK’sには、直4DOHCターボのSR20DETエンジンは最高出力220ps/6000rpm・最大トルク28.0kg-m/4800rpmを搭載。Q’sとJ‘sには最高出力160ps/6400rpm・最大トルク19.2kg-m/4800rpmを発揮する自然吸気のSR20DEを採用している。それでいて車両重量は1200kg程度なので、先代よりも100kg前後の重量増ではあるものの、それほど走りに影響を与えるものではなかった。
一般道(市街地)での楽しさといえば、足で操作するABCペダルと左手で操るシフトノブ、そして手のひらを使って舵取りするステアリング操作に加え、アクセルを踏む・離す分だけ加減速できる反応の良さは、思い通りにクルマを操ることがことができた。もちろん、それを実現させるためのギヤのセレクトと適切なシフト操作が重要であり、ぐにゃぐにゃした操作感では気持ち良く走らせることはできない。だが、節度がありながらもタイト過ぎない操作感は市街地でも扱いやすく、ステアリング操作も路面の状況をリニアに感じ取ることが可能であった。
例えば大雨で道路とタイヤの接地感が希薄と感じればそれに対応できるし、狙ったラインをしっかりトレースすることができれば、これこそが日産が掲げた901運動の哲学が少なからずS14シルビアにも影響を与えたと言えるだろう。
3ナンバー化以上に不評だったのはシャープさを失ったデザインか?
すでにコストダウンのためにほかの車種と部品共有が図られていたが、そこはまだバブル期。内外装の設えに、いかにもなチープさを感じさせることはなく、運転席はもちろん、助手席に乗車している分には不満のないフロントシートであった。発売直後から不評だったスタイリングは個人的にはバランスがとれていると感じており、デートカーとしても、スポーツクーペとしても充実したスタイリングとパッケージング、そして走りの性能を兼ね備えていた。ただし、唯一不満があるとすれば一度操作したら出番があまりないエアコンの操作パネルが中央の絶好のポジションに配されていたことぐらいか……。
また、S14シルビア前期のアンチ派がいるとすれば、その要因はR32型からR33型へとモデルチェンジした際にファンをざわつかせたのと同様に、少し膨よかに見えるエクステリアデザインだろう。日産はその声を受けて後期型ではシャープなスタイリングへとイメチェンを図ったが、今度は尖ったスポーティさが顔を覗かせてしまいデートカーとは呼べないクルマになってしまった。
そして後期へと進化したからといって売り上げが大幅にアップすることはなく、もちろんスタイリングの好みには好き嫌いがあるだろうが、かえってバランスを崩してしまったと言える。S13からの正常進化と捉えると、3ナンバー化されたとはいえ後期ではなく前期が正しかったのかもしれない。
ターボ仕様はエンジン出力を大幅に向上! 5ナンバーサイズへと回帰したS15
現時点で最後のシルビアとなるS15だが、先代S14の反省をもとに5ナンバーサイズに戻ったと言われている。スタイリングはS14後期の正常進化のようなシャープでスポーティな印象で、いかにも走りを期待させるルックスだ。
グレード名はトランプの絵札からの引用を止め、ターボモデル=スペックR(6速MT・4速AT)、NAモデル=スペックS(5速MT・4速AT)に改められた。2L直4DOHCターボのSR20DET型エンジンは最高出力250ps/6400rpm・最大トルク28.0kg-m/4800rpm(※4速AT車は最高出力225ps/6000rpm・最大トルク28.0kg-m/4800rpm)へと一段と高性能化が図られている。
対して2L直4DOHC NAのSR20DE型エンジンはS14からエンジンスペックに変更がなく、最高出力165ps/6400rpm・最大トルク19.6kg-m/4800rpm(※4速AT車は最高出力160ps/4000rpm・最大トルク19.2kg-m/4800rpm)に止まった。
サスペンション型式はフロントにストラット式、リヤにマルチリンク式を3代(S13/S14/S15)に渡り継承。5ナンバーサイズのコンパクトボディとなったが、車両重量はS14と同等の1240kg(スペックR)と、比較的軽量な車両重量も相まって、軽快かつスポーティな走りに磨きがかかった。これこそがS13の正当な後継車だと考えることもできるが、いかがだろうか?
インテリアもスポーティであり、ダッシュボードには多連メーターを連奏させる丸型のエアコン吹き出し口が配置され、センタークラスターにはカーナビやオーディオがインストールされたほか、歴代シルビアを紡いできた視認性の高い各種メーター類は健在。これぞスポーツカーとなった。
デートカーよりもスポーツ性能をより追求したS15シルビア
もちろん走りも楽しいものだった。経験値が豊富なドライバーが自制心を持って街を流すだけでもFRスポーツの楽しさを享受することができ、ターボ車のスペックRはもちろんNAのスペックSでも、峠道では誰でもテールスライドができるほどパワフルでコントロールしやすく、ステージをサーキットに移せばノーマル車でもドリフト走行が堪能できるほど。兎にも角にも操作性に優れた正統派のスポーツカーであった。
それでも、疑問がないわけではない。長期休暇中にS15シルビアを遠方へ連れ出し、土地勘がない峠道を走っていたところ、前を走る地元の軽自動車の後ろを追いかけるべく付いていくと(こういうクルマは滅法速い)、後輪の挙動が後席の乗員には楽しくない(テールスライドする)状況となってしまったのである。
ドライバーはすべて自分の管理下における面白さがあったのだが、後席は大変だった……。ここで気が付いたのだが、S15シルビアは良くも悪くもドリフトができてしまうスポーツカーで、対照的に国産初の電動ハードトップのフルオープンカーとした登場したヴァリエッタは、S15では珍しいデートカーとしての使命が課せられたモデルだったと言えるのではないだろうか。
否、基本的にS14後期からシルビアは真性なスポーツカーとなってしまい、デートカーとかおしゃれな2ドアクーペであることを放棄してしまったのではないか……。
販売台数だけでは評価できない最終世代シルビアの名車ぶり
こうした評価は決して悪いことではなく、シルビアがスポーツカーであることに不思議はない。だがS13の成功を振り返ると、端正なスタイリングは万人から支持されるスマートなものだったし、S14前期も同じで、走りも快適性も両方を大切にしていた部分がスポーツカー兼デートカーであった。ところがS14後期からスポーティ路線が強まり、1997年にはS14後期に「オーテックバージョンK’s MF-T」が登場。そして、よりスポーティなデザインとより高性能なシャシー&エンジン性能を引っさげて、現時点で最後のシルビアとなるS15が2000年にデビューした。
振り返るとS13の販売台数は約30万台、S14が約8万5000台、S15が約3万台と、クルマの魅力度とは裏腹にモデルチェンジを行う度に、販売台数が稼げなくなっていった。その結果、S15でシルビアは一旦休止。ここで気が付いたのだが、じつはデートカーというジャンルはS14の時代から存在意義を失っており、すでにミニバンのホンダ・オデッセイやトヨタ・エスティマが登場するなど、クルマの多様化でますますスポーツカーの存在意義が薄くなってしまう。
そして現在の1990〜2000年代のネオクラ旧車の人気ぶりには驚かされるばかり。ノスタルジーにひたりながらS13〜S15までの各モデルを振り返ると、販売台数だけでは推し量ることができない魅力に溢れており、間違いなく今もときめく名車の1台だと言える。