異次元の加速を手にする最強VR38の作り方とは?
これまでにR35日産GT-Rのカスタマイズを何台も手掛けてきた石川県小松市の『TMワークス』。「CLUB RH9」に加盟するプロショップだからこそ語れるVR38DETTのチューニングノウハウ。前編のライトチューン&メンテナンス編に続き、後編ではタービン交換から1000㎰超まで、R35GT-Rが持つポテンシャルを極限まで引き出すフルチューン仕様の楽しさと押さえておくべき弱点について伝授してもらう。
(初出:GT-R Magazine 153号)
1000ps仕様でも街乗りでの扱いやすさは必須!
「ピークパワーが何馬力になろうが、ストリートで走れることが絶対条件。エアコンもオーディオも外さず、なおかつドライブをしっかり楽しめる街乗り仕様をベースに、どこまでスペックを上積みしていけるのかを考えて手を加えています」と語る『TMワークス』の浜原良栄代表は、例え1000psを超える仕様になっても、この理想を崩すつもりはないという。ゼロヨンで9秒075という記録を達成したときも、ノーマルボディ+ラジアルタイヤで挑んだ。極限のR35GT-Rを作り、トライ&エラーを繰り返すごとに浜原代表はR35のすごさと弱点を知ることになったそうだ。
前編ではブーストアップの楽しみ方とチューニングの第一歩としてやるべきことについて解説してもらった。そこで後編では「タービン交換とVR38DETTチューニング」について話をうかがう。そもそもR35はエンジン内部に手を入れず、タービン交換のみでどの程度まで楽しめるのだろうか?
「だいたい800ps程度ならエンジンがノーマルでも大丈夫です。タービンを交換してよりパワーを出すというのもありますが、ウエストゲート式にするのが最大のメリットです。純正はアクチュエータ式。ウエストゲート式に交換することでブーストが安定しますからね」
とくにMY08(2008年モデル)などいわゆる前期モデルはすでに新車から13年以上が経過し、タービンは確実にヘタってきている。どうせ交換するなら純正ではなく、タービンのアップグレードがお勧めだと浜原代表。イチ推しは『HKS』のGTIII‒800キット。GTIII‒RSタービンのカートリッジを使ったターボキットで、それまでのGT800の軸受けがボールベアリングだったのに対し、GTIII‒800はメタルになっており上の伸びが格段に違うという。
弱点を補うことでさらにパワーを引き出すことが可能
「ちゃんとしたタービンを選べば750~800psは目指せます……が、ここで燃料ポンプの交換もしくは電圧チューンが必要なので注意です」
R35の燃料ポンプはプライマリーとセカンダリーがあり、プライマリーは14Vだが、セカンダリーの電圧は10Vしかない。予算的に余裕があるなら燃料ポンプの交換をすれば済む話だが、純正を使い切りたいという場合、リレーを使ってセカンダリーにも14Vの電圧を供給すれば、純正ポンプを100%使い、800psまで対応可能となる。
ここで前編の内容を繰り返すが、インタークーラーのパイピングやトランスミッション対策などは、タービンを交換する以前に施工されているのが前提だ。浜原代表の知識とこれまでの経験から、この2点は早い段階で手を加えること、そしてタービン交換と同時にクラッチプレートを7枚もしくは8枚に増やすことを勧めている。
「ブーストアップでは0‒200km/hが速くなります。タービン交換ではその先の200‒300km/hが速くなるので、まだここから加速するのか、という感覚を味わえます」
200km/hオーバーの領域は非現実と感じるかもしれないが、例えば富士スピードウェイの直線が変わってくる。また、パワーだけでなくトルクも上がることで、高速クルージングも楽になる。
「タービン交換時にエンジンを降ろすことになるので、ついでにカムシャフトのみ交換する方も多いです。上が伸びるようになりますよ」と浜原代表。
エンジン内部に手を入れて排気量を上げる手もアリ
さて、いよいよVR38DETT本体に手を入れるという話になる。前述したように、タービン交換時にエンジンを降ろす必要があるため、リフレッシュを兼ねるというのもありだ。浜原代表いわく、純正はコンロッドが細いのが難点の一つ。サーキットを走るのであれば強化品に交換したほうが間違いない。
「エンジン内部をやらずとも、サージタンクを交換し、純正12穴インジェクターのツイン仕様(570cc×12本)を選んでいます。これが一般的なチューニングのゴールかもしれないですね」
では、その先のいわゆる1000psオーバーはどのようなものか?
「800psを超えてくるとエンジンにも手を加える必要があります。1000psオーバーなら燃料ポンプが3つ必要になってくるのです。ノーマルからサードの295L/hに交換し、さらに同じモノを1本追加。われわれも何台か1000ps超マシンを作りましたが、これは基本じゃないと思っています。燃料ラインを別に引かなければならないし、しっかりチェックはしますがガソリンの漏れも心配になりますし。使うタービンにもよりますが、VR38を王道でチューニングしていくと950psがマックスですかね。これなら燃料ポンプは追加せずに済みます」
排気量の違いによって特性も大きく変化
エンジンまで手を入れるとなると選択肢は二つ。3.8Lのままか、排気量アップまで手を出すか。
「わたしは3.8Lのまま9000rpmまで回すほうが好きです。鍛造ピストンにH断面コンロッド、純正クランクシャフトをバランス取りしてヘッドはポート研磨しビッグバルブ仕様に。ここまでやれば完璧です。低速トルクは純正と変わらず、上はズドーンと加速。異次元の速さは最高です。ただ、サーキットなら4.3Lのほうがトルクがあっておもしろいと思います。コストも3倍くらい掛かりますが、鬼のようなトルクを味わいたいなら排気量アップですね。ほかにも4.0L仕様にするなどエンジン内部に手を入れるとなると、チューニングの選択肢が圧倒的に広がりますね」と浜原代表は語ってくれた。
VR38DETTを知り尽くすからこそ、それぞれの楽しさを上手く引き出すことができるのだ。そして何機もバラして見てきたからこそ細部の弱点に気付くこともある。
「クランクの先端にあるキーは長穴加工したほうがいいですね。第2世代GT-RのRB26DETTでは二つあったキーが、R35のVR38DETTでは一つになっています。ここが外れたら致命傷なのですが…………」
それでもVR38はRB26の進化版だと感じているそう。限界値の高さがチューナー魂に火をつける。同店ではMY20(2020年モデル)の新デモカーも投入した。TMワークスの新たな挑戦が始まる。
(この記事は2020年6月1日発売のGT-R Magazine 153号に掲載した記事を元に再編集しています)