スピードジャンキーの欲求にゴールはない
昭和のオトコ達を虜にしたクルマは数多くあるが、個性的でゴージャスで、ワクワクさせるモデルといえばトヨタ「70スープラ」は外せない。当時、クルマ選びの最優先事項はスポーティでありカッコ良くて速いことであった。
この70スープラは、スーパーカーブームを経験した世代みんなが魅力的だと感じるパカライト(リトラクタブルヘッドライト)、ロングノーズ、クーペスタイルを持っていた。そして、直6ツインカム、インタークーラー付きツインターボというハイテクメカにも憧れたものだ。今回はそんな70スープラを自分の理想とするべく19年もの歳月と膨大な費用かけ、熱い心意気でカスタムに挑んだオーナー渾身の愛車を紹介しよう。
60万円で購入した70スープラとの19年間
今からさかのぼること19年前に60万円で購入したという冨沢雅也さんの70スープラ。当初、ドレスアップ目的でカスタムマイズを楽しんでいたが、次第にハイパワーを持つチューニングカーならではの強烈な加速に目覚め、その方向性をゼロヨン、ドラッグ仕様へと変更したという。
70スープラらしさを崩さないスタイルは、オーナーの愛情というべきモディファイにある。フロントスポイラーは純正改としながら、スープラオーナーズクラブが作ったリップスポイラーを装着。そこに、アブフラッグの汎用デュフューザーを組み合わせている。
また、サイドステップとカナードはボメックス製で、テールはドラッグスタイルを強調させるために鉄板でエンド部分を延長させたワンオフウイングがシンプルでカッコ良い。テールはIPF丸テール仕様にしているのが印象的だ。
エンジンについては、オリジナルの1JZから2JZエンジンに載せ替えたフルチューンユニットを搭載。本体はHKS製鍛造ピストン、東名製コンロッド、トラスト製サージタンクをセットした3.1L仕様で、タービンはGCG2871Rを2基セット。どうしてもツインターボにしたくてあえて小型のタービン(1基2Lシングルターボ級)を選んでセットしている。
さらにこのクルマはNOSも搭載。ここぞというタイミングでNOSを全噴射させると、そのパワーはブースト圧1.6kg/cm2時に実測で867psをマークするというから、その加速たるや……。
このパワーに対応させるために、タイヤはドラッグ専用モデルに交換。駆動輪となるリヤには、ゼロヨンマシンであることを主張できるサイドウォールの分厚い迫力満点のタイヤ──通称ドラスリことHoosier製DUICK PROを履かせている。ドライブシャフトは純正のままだが、デフはクスコ製強化LSDをセットしてハイパワーを受け止める。
外は70、コクピットは80スープラ
70スープラオーナーならば気づくと思うが、このクルマはじつに凝った細工が施されている。注目すべき箇所としてヘッドライトを見てもらいたい。純正のリトラクタブルヘッドライトよりも薄いことに気づくだろう。
実はこのヘッドライトユニットは、NSX用を流用しマウントしている。プロジェクターライトのさりげない薄目スタイルが独特の表情を作り出して良い感じだ。
また、よく見るとボディ全体もひとまわり大きくなっている。じつは前後ともに純正形状のブリスターフェンダーを装着し、フロントで6cm、リヤが8cmずつワイドボディ化しているそうだ。
その他については、内装に注目してもらいたい。かなり自然な形で収まっているが、じつはダッシュボードを含めた内装一式が80スープラ仕様になっているから面白い。かなり加工を加えて取り付けたらしいが、この80スープラのコクピットは、スポーツカーとして包み込まれ感が心地よいので、70スープラ乗りならジェラシーを感じたことが一度はあるはずだ。こうしたトリッキーなスタイルも魅力的と言えるだろう。
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60万円で購入したJZA70スープラ。ドレスアップ、チューニングを含めた総チューニング費用を聞いてみると、1500万円を超えているという。その製作過程はとても充実していて楽しい時間だったとオーナーの冨沢雅也さんは語ってくれた。
クルマいじりを楽しみ、チューニングによる効果に感動し、その先を目指してさらなる一歩を考えて実践に移す日々。スピードジャンキーの欲求にゴールなんてない。きっとこの先も冨沢雅也さん愛車は進化を遂げていくことだろう。