「クラウン(王冠)」とは別のトヨタのセダンの系譜「カムリ(冠)」
車名のカムリは日本語の「冠」に由来するネーミングである。ただし初出は、1980年に登場した、2代目カリーナの4ドアセダンをベースに仕立てられたクルマに与えられた車名の「セリカカムリ」だった。セリカと同じカローラ店で売るために、カローラセダンよりも上級なクルマとして誕生したセリカカムリは、あのトヨタ2000GTや初代セリカXXなどと同じTOYOTAの「T」をかたどったフロントグリルを備えている。日本語が出自のユニークな車名(欧文表記では、トヨタの多くのクルマと同じように「C」で始まった)ということで、何か特別なシリーズとして発展していくのでは!? などと思わされたものだ。
一方で車名が単独の「カムリ」となったのは、1982年3月に登場したモデルから。このときに販売店違いの兄弟車として新規車種の「ビスタ」が登場。つまりカムリとしては2代目、ビスタとしては初代モデルだったのがこの世代というわけだ。
FF車用に新開発した「LASRE」エンジンを搭載
写真のカムリのカタログは昭和57年(1982年)3月とある、正真正銘の登場時のものだが、ほかのクルマの通常のカタログよりもややサイズが大きく(余談だが、背が高いため保管には本棚のダボを移動させて段を調整し直さなければならず手がかかる。同例ではホンダCR-X&NSX、トヨタ・ウインダムのカタログなど)、いかにも新世代感をアピールしようとしていることが伝わってくる体裁になっている。
当時はあまり意識しなかったのだが、ヘッドコピーにあたるのが最初の見開きに大きく書かれた「レーザー革命第2章、進化するレーザーがFFを変える。」だ。1980年に初代クレスタに搭載されて登場した最初の「1GEU」型軽量6気筒以降、新世代のトヨタのエンジンはレーザー(LASRE)と呼ばれ、このカムリ/ビスタに搭載されたFF車用の新開発「1S-U」型(4気筒、1832cc)は、その第2弾ということで、このようなコピーが付けられていたのだった。
なお最近自分の記憶力の低下をつくづく実感する筆者は、「レーザー」が何の略だったかこの原稿を書きながら空で言えず焦ったところだが、正しておけば「Lightweight Advanced Super Response Engine」を称してトヨタが考えた呼称がLASREだった。
圧倒的にゆとりのある空間が自慢だった
もうひとつの特徴は、トヨタの中級セダンとして初のFF車だったこと。広告ではないから許されていたのだろうが、当時の広報資料を見ると「圧倒的な広さと抜群の快適性を実現している」とある。別にトヨタのうたい文句に躍らされたわけではないが、この初代FFカムリ/ビスタの清々とした室内空間の広さは、当時のほかのクルマとはまったく別世界だった。
トヨタ車初のFF車は1978年登場の初代ターセル/コルサだったが、2代目カムリ/初代ビスタでは、5ナンバーサイズ、ホイールベースは2600mmとしたうえでFFの合理的なパッケージングを中級セダンで実現。加えてセンターコンソールを廃したスッキリとした前席足元スペース、ゆとりのある後席など、それまでの同クラスのFR車に慣れ親しんだ感覚で接すると「これは異次元空間ではないか!?」と思わされる快適さだった。
インパネはスッキリしたデザインで、前年の1981年に登場していた初代ソアラ同様のエレクトロニックディスプレイメーターや、オーディオに7バンドグラフィックイコライザーを用意するなど、さり気なく上質な装備が与えられていたところも見逃せない。
スッキリあか抜けたスタイリングもFFの美点だった
見逃せないといえば、スタイリングもそうだ。たしかに初代カムリ/ビスタが登場した1982年のトヨタ車といえば、おしなべてシャープなデザインの直線基調のクルマが主流だった。その中で初代カムリ/ビスタも分類すれば、直線基調でほかのトヨタ車と足並みを揃えているかのようだった。ところがFFのパッケージングをもとに、他車とはそこはかとなくムードの違う、斬新であか抜けた印象だったことは今でもクッキリと思い出せる。
筆者はごく個人的に、リヤドアにパーティションを持たない6ライトキャビンのスッキリした佇まいに、その頃のルノーのセダンあたりやB2アウディ80あたりのイメージを重ねて眺めていたものだ。
ちなみに登場年の1982年8月になると、ビスタに5ドアが追加設定され、リヤシートを倒せばセダンの約3倍(セダン385L、5ドア1112L)というラゲッジスペースが得られるプラスアルファの実用性を実現させ、クルマをレジャーや趣味に使いこなすユーザーからも注目を集めた。
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最初からFFセダンとして登場したカムリのブランドイメージそのものは決して派手なものではなく、あくまでもスマートで賢いクルマを選びたい……そんなユーザーに好まれた。
TNGAをベースとする最新モデルはじつに10代目にあたり、先頃、日本市場でもマイナーチェンジを受けるなどしながら存続しているが、このクルマの場合はむしろ海外市場での人気が高く、とくに北米市場では長年ベストセラーの座にあったほど。実用セダンとしての実力を日本国内よりも海外市場で発揮、評価されてきたブランドなのである。