現存するTipo33ストラダーレは10台前後という希少モデル
クルマは乗ってなんぼ、走ってなんぼ、との主張があります。またまずは美しさが重要、と論じる向きもあります。もちろん、その両方を満足できているに越したことはありません。また、十分すぎるパフォーマンスで走りも満足させてくれるだろうけれども、美しさだけでも納得できるクルマも存在します。世界一美しいクルマ、との評価に異論をはさむ余地のない1台、アルファ ロメオのTipo33ストラダーレを振り返ります。
世界一美しいクルマは同時にスポーツカーのサラブレッド
アルファ ロメオTipo33ストラダーレのスタイリングを手掛けたのはフランコ・スカリオーネでした。1952年から1959年にかけてベルトーネに在籍していた彼は、1954年にはアルファ ロメオ・ジュリエッタ・スプリントを手掛けて、これが出世作となりました。
以後もジュリエッタ・スパイダー・ベルトーネ(コンセプトモデル)や、極めて少数が生産されたアルファ ロメオ2000スポルティーバなどを手掛けています。またベルトーネを辞したあとはフリーランスのスタイリストとして、ポルシェとアバルトがジョイントして生産されたポルシェ356Bカレラ・アバルトGTLや、ランボルギーニ350GTのプロトタイプである350GTVのスタイリングも手掛けています。
いずれも流麗なデザインが特徴ですが、のちに風洞実験などで検証したところ、空力性能でも高いポテンシャルが確認できたそうです。ひょっとしたら彼には空気の流れが見えていたのかもしれません。そんなスカリオーネが手掛けたアルファ ロメオのTipo33ストラダーレは、ひと言でいうならミッド・エンジンの2シーター・クーペですが、ドアがとても特徴的でした。
サイドウィンドウが垂直な部分とルーフにまで回り込んだ部分と2ピースで構成され、ドア自体もAピラー下部とルーフの2点にヒンジを持ったバタフライドアを採用していました。世の中に美しいとされるクルマは多いけれどTipo33ストラダーレは世界一美しいクルマと言ってよいでしょう。
メカニズムの解説に移る前に、その出自を紹介しておきましょう。スポーツカーとはレーシングカーとロードカーの境目に位置するクルマ、とは言い旧された表現ですが、Tipo33ストラダーレはより一歩、レーシングカーの世界に踏み込んだロードカーということになります。
その車名、Tipo33 ストラダーレですが、Tipo33は「タイプ33」、ストラダーレ(Stradale)はイタリア語で「道」の意味があり、レーシングカーから転用されたロードゴーイングカーは多くの場合、こう呼ばれています。つまり「タイプ33のレーシングカーをロードゴーイングにコンバートしたモデル」ということです。
そのタイプ33、いやTipo33は1960年代から1970年代にかけて隆盛を誇っていた世界メーカー選手権(1962年から1967年は国際マニュファクチャラーズ選手権、1968年から1971年は国際メーカー選手権)に参戦することを目的に開発されたグループ6のレーシングマシン。オリジナルモデルのTipo33=ミッド・エンジンのオープン2シーターが1965年に完成しています。
アルファ ロメオのワークス活動を担っていたアウトデルタでは、エンジンを1.6L直4から新開発の1995ccV8ツインカム(4カム)に換装して実戦投入しましたが、オープンボディの空力特性に苦労してなかなか好成績を上げることができず。ベストリザルトは1967年のニュルブルクリンク1000kmでの5位入賞に留まってしまいました。
そこで新たにクーペボディを開発してTipo33/2を製作。1968年のデイトナ24時間にデビューさせています。このデビュー戦では2リットルクラスで1-2フィニッシュを飾り、タルガフローリオとモンツァ、ニュルブルクリンクの1000kmレースでもクラス優勝を飾っています。デイトナでデビューレースウィンを飾ったことからTipo33/2はデイトナ、あるいはデイトナ・クーペと呼ばれています。
その後、Tipo33/2は3Lオープン2シーターのT33/3、4LのCan-Am用T33/4、鋼管スペースフレームにフラット12を搭載したTipo33 TT12、モノコックフレームにコンバートしたTipo33SC12、エンジンをターボで再チューニングしたTipo33SC12ターボへと発展。
1971年と1972年にランキング2位につけ、1975年には全9戦のシリーズで出場した8戦のうち7戦で優勝し、念願のチャンピオンを獲得しています。そんな栄光のTipo33から派生したTipo33ストラダーレは、名門アルファ ロメオのレーシングマシンという血統を継承するサラブレッドということに異論はないでしょう。