昔から実用車の領域までカバーしていた「クラウン」
トヨタの新型「クラウン」発表の際、ステージ上で両手を大きく広げた豊田章男社長の背後に「クロスオーバー/スポーツ/セダン/エステート」と4モデルが同時に公表されたことについて、巷では「いっぺんに凄くない?(今風に語尾を上げて)」など、さまざまな意見が飛び交った。
とはいえクラウンといえば、これまでにも、その長い歴史のなかでいろいろなバリエーションを揃えていたクルマだったことも事実。1955年に登場した初代クラウンの世代で、すでに「マスターラインクラウンバン」、「マスターラインピックアップ」、「ダブルキャブピックアップ」と呼ばれた商用バンやトラックがあったし、3代目クラウンまではピックアップトラックにシングルシート(3人乗り/750kg積)とダブルシート(6人乗り/500kg積)を設定。これらに加えバンのほか、「カスタム」と呼ばれるステーションワゴンも揃え、セダン、初代2ドアハードトップとともに、クラウンの名のもと、豊富なバリエーション展開を敷いていた。ハイオーナーカーであったと同時に、かつては実用車の領域もカバーしていたのだった。
2代目~5代目:「クラウンカスタム」
そうした歴代クラウンのなかで、ワゴンモデルが登場したのは1962年の2代目クラウン時代で、このときの「カスタム」が最初。「ハイウェイ時代のデラックスな乗用車」、「クラウンデラックスの特長はそのままに、たくさんの手回り品を同時に運ぶ機能をプラスした、新登場の本格的ステーション・ワゴン」などとは当時のカタログの記述から。1900ccの90psエンジンを搭載し、車速50km/hを超えると自動的にプロペラシャフトの回転を上げる自動増速装置「トヨグライド」(2速AT)なども設定している。
続く3代目クラウンの世代では、クラウンカスタムの呼称は継承し、より高級志向を強めて進化。このモデルでは折り畳み式のサードシートを備えた8人乗りとし、バックドアに横開き式が採用されるなどした。
「クラウンカスタム」の呼称は1971年の4代目、続く1974年の5代目まで引き継がれた。4代目クラウンは、後になって「クジラクラウン」(スピンドル・シェイプが正規の呼称だった)と呼ばれるようになった世代だ。セダン、ハードトップとともにあの意欲的というか、クラウンとしては前衛的だったスタイルで、ラゲッジスペースには後ろ向きにセットされた折り畳み式サードシートを備え、乗車定員は8人。カタログの諸元表を見ると、搭載エンジンは直6の2Lで、トランスミッションには3段コラムシフト/3段コラムシフトトヨグライド/4段フロアシフト/3段フロアトヨグライドと全4タイプの用意があった。
1974年に登場した5代目は、初のピラードハードトップが設定された世代で、「これからの時代の高級多用途カー」とカタログにある。2本ワイパーが備わるバックドアはオーソドックスなハネ上げ式。サードシート(2名分)が備わり、フロントシートの形状違いで7人乗りのほか8人乗りも設定された。
6代目~7代目:「クラウンワゴン」/8代目~9代目「クラウンステーションワゴン」
1979年登場の6代目は「クラウンワゴン」の呼称で、2.2Lのディーゼルエンジンを搭載し、サードシート付きの乗車定員7名の1タイプを設定。その次の7代目は1983年の登場で、クリスタルピラーの4ドアハードトップがあった世代だ。2Lのガソリンエンジンのほかに2.4Lのターボディーゼルも設定された。スカイライトウインドウと呼ばれる、前席頭上の特徴的だったガラスルーフは、このモデルのスーパーサルーンで初登場した。
そして「ステーションワゴン」の名称で呼ばれた8代目(1987年)と9代目(1991年)は、基本的にキャリーオーバー。これらの世代になると名実ともに上級化、近代化を果たし、最上級のロイヤルサルーンは、8代目には2.5Lの6気筒(JZ-GE型)、9世代になると3L(2JZ-GE型)が搭載されるなどした。乗車定員は8代目では5名の設定があったものの、9代目では7名もしくは8名の設定に。オールフラットシートも採用されている。
10代目:「クラウンエステートワゴン」
一方で意外にも「エステート」の名が初めて与えられたのは新しい世代で、1999年9月に登場した11代目クラウンをベースに、同年12月に登場した通算10代目のワゴンでのことだった。前述したとおり8世代目の後のフルモデルチェンジが1度スキップしたことから、じつに12年振りの一新である。
この世代では先代までのサードシートがなくなり全車5名乗りとなり、同世代のセダンと同様にロイヤルに加えアスリートがシリーズとして登場。アスリートには3Lと2.5Lターボも用意されたほか、4WDモデルのアスリートFourもラインアップに加えられた。アスリートのFRモデルはスポーツサスペンションが標準で、スポーツ色も打ち出した点を特徴としていた。ただし2007年6月に生産終了となり、ここでクラウンのステーションワゴンの歴史はおしまいとなった。
* * *
駆け足でクラウンのステーションワゴンを振り返ってみた。最後のモデルでサードシートの装備がなくなった点がなんとも残念だったが、サードシートを備えるステーションワゴンの最上級クラスとして、ずっとわが道を行っていたのがクラウンのステーションワゴンだったように思う。ステーションワゴンのニーズが減じてしまったといえばそれまでだが、いわゆるLクラスならではのゆとり、優雅さを誇った唯我独尊のクルマだった。