GT-RをGT-Rらしく乗り続ける整備の重要性
第2世代Rと呼ばれるR32/R33/R34スカイラインGT-R。今でも人気の高いモデルだが、もはや今の時代、どこも経年劣化していない第2世代GT-Rなんて存在しない。何かしらお疲れモードになっているはずだ。いつ壊れるんだろう? 走っている途中でトラブルが出たり、最悪は止まってしまったりしないだろうか? せっかくGT-Rオーナーになりながらも、いつも心に不安を抱きながら走るのは幸せなのか? この先10年乗り続けるならば、早いうちに安心を手に入れたほうがいい。そこで、「今」やるべきメンテナンスについて、プロショップである『緑整備センター』に聞いてみた。
(初出:GT-R Magazine163号)
数度の修理と純正部品の製造廃止が不安の種
BNR32の誕生から33年、最終型のBNR34ですら20年が経とうとしている。もはや若さ溢れる第2世代GT-Rなど、ほとんどないだろう。何かしら経年劣化しており、各パーツの2回目3回目の交換、リフレッシュというクルマも少なくないはずだ。
さらに純正部品の製廃や価格の高騰が進んでいることもあり、いつも何かの心配をしたり、乗るたびに不安を感じてしまう。恐らくそんな状況に陥っている方も多いことだろう。ちょっとしたオイル漏れを発見して直す。そしてまた次のトラブルが発覚し、直す。愛着があるから手間が掛かるのはいいのかもしれない。でもいつしか本来のGT-Rとの楽しみ方を見失っていないだろうか。
ではどうすればいいのか? 答えは簡単だ。今、このタイミングでリセットすればいいのである。対処療法的な修理を繰り返すのではなく、トータルで整備する。そして一つ一つ安心を得ていくのだ。
車両の状態を一度リセットして安心を得る
もちろん、クルマ全体を一気にリセットするのは難しい。金額的にも現実的ではないだろう。トラブルはないものの何か不安という場合、一番最初にやっておいたほうがいい場所はどこか?
「基本的にはエンジンまわりの整備をしっかりすることですね。タイミングベルト、インマニ下のホースやパイプ類。空気や水まわりなどを一気にリフレッシュするのです。エンジンオーバーホールとまでは言わないですが、周辺のホース類は一度全部見直したほうがいいですね。GT-Rと言えどもこうしたパーツは特別なものではなく、他車のパーツと同じように劣化していくのですから」と『緑整備センター』の内永 豊代表は語る。
例えばエンジンルーム/フロントサス/リヤサス/駆動系というように、グループ分けするのが大切。そして順番にリフレッシュしていくことで、不安は一つずつ解消していく。まずは安心して乗るためにやるべきこと。それが整備である。
整備費用150万円は決して高くはない
ちなみに現状で一般的な状態(トラブルはない)の車両で考えると、ファンカップリング、ベルト類とその周辺、水/空気/オイルのホース&パイプ、インマニ等のガスケット類、EGIハーネスやオルタネーター、スピードメーターケーブル、外装のモールやゴム類など細かい周辺パーツまでを含めた整備は、もちろん車両の状態で高くも安くもなるが、工賃込みで150万円程度が目安となる。
この金額をどう感じるか。対処療法で修理を繰り返せば、1回の価格は安くとも塵も積もれば……となる。さらに、この金額の目安は「今」である。最初にも書いたように純正部品の価格は年々上がっている。安くなることはこの先ないと断言していいだろう。とくに中古でGT-Rを手に入れたはいいが、真の状態が把握できず不安という方は、やはり一度しっかりした整備を施し、リセットすることをオススメする。一度やってしまえば、あとは定期的な整備を怠らなければ安心なのだから。
しっかりした整備の先に自分好みに仕上げるチューニングがある。この先第2世代GT-Rと長く付き合っていくならば、決断しなければいけない時期がやってきているのだ。
緑整備センターが仕立てた極上R32の中身
ところで、緑整備センターには2021年に完成したばかりという極上のBNR32が存在する。ボディもエンジンルームもピカピカで、内装もまるで新車かと思うような状態となっている。純正部品の製造廃止が進む中、どれだけの大金が必要になるのか。
「すべてを新品パーツで仕上げようとはそもそも考えていません。レストアではなくセミレストアです。パーツを交換するという場合もありますが、いかに装着しているものを再生してきれいにするかに重きを置いています」と話す内永 仁氏。エンジンは一度下ろしてパイプ類なども徹底的に洗浄。サンドブラストやウエットブラストを使い、まるで新品かと思うくらいまで汚れを落とす。
このBNR32の製作は、そもそも技術向上のためのテストとして考えていた。内装もカーペットまですべて剥がして洗浄。やり方によってはこのクルマのように、まるで新品を使ったかのように甦ることができるのだ。お金を掛けるのではなく、知恵を絞って手間を惜しまない。使えるものは再利用する。
完璧を目指さないセミレストアという考え方
「言い方は悪いですが、すべてを完璧に仕上げているというワケではありません。例えば再利用するからちょっと歪んでいる部分があるかもしれません。でも性能に影響がなく、パッと見はわからないならそれでいいと思います。それよりも一目見ただけではすごいね、きれいだねと思わせるためのテクニックを身に付ければいいのです」
ラジエータブラケットなど緑の亜鉛メッキが使われている部分は、再メッキなどわざわざやらなくてもいい。それっぽく見えるような、違和感のない色で塗装してしまえばいいのだ。剥がれてきたらまた塗ればいいのだから。完璧を目指せばしんどいだけだ。ある程度の妥協もありつつ、できる限りの工夫で再生する。この考え方や手法は、バイクのレストアから学んだと仁氏。見えない部分のネジは掃除して再利用すればいい。しかしクランク角センサー部など見える部分は新品を使う。ピカピカし過ぎても不自然だし、いかに全体を演出できるかがキモになってくるようだ。
「外装に関して言えば、モールは新品を使います。そうしないとビシッとしないんですよね。GT-Rは乗って楽しむのも大切ですが、ボンネットを開けたとき『すごいですね』と言われるのも醍醐味。クルマをまったく知らない人からも、古いクルマなのにきれいですね、と言われるくらいがいいじゃないですか」
待てば待つほどリセット作業の工賃は高くなる
一度極上の状態まで仕上げたら、あとは各部の整備と同様に日々のメンテナンス(清掃)によって、維持していけばいいだけ。汚れたらその都度きれいにしておけば、そんなに面倒なことにはならないはずだ。そしてきれいに愛車を磨き込んでいけば愛着も増え続ける。
できることなら真似してみたいと思うが、エンジンも下ろし室内もバラすと考えれば、自ずと安いメニューではないとわかる。実際のところエンジンルームの作業だけでも400~500万円くらいは見てほしい。ちなみに2年前から製作を開始し2021年に仕上がったこのR32は、当時価格で800万円以上は掛かっているそうだ。ちなみに純正部品の価格を考えれば、今やれば1000万円程度。来年やればもっと高くなるだろう。整備にしてもセミレストアにしても、一番安くできるのは、結局「今」なのである。
純正部品が手に入らなければ、清掃したり磨いたり、塗装したりで再生させる。これを妥協というならば、かなりハイレベルな話だ。ここから先はこうした柔軟な考え方でGT-Rと向き合い、愛情を掛けていくのが幸せなGT-Rライフと言えるのではないだろうか?