V12自然吸気エンジンで踊るように走る“ダンスパートナー”
もはやロードカーとは思えないスタイルに乗る前には少し怖気づいたが、それも束の間、全く気負わずにスタートできた。視界の良いことに加えて、車体が明らかに軽く、また微妙なスロットルにも適切に反応する柔軟さをパワートレインが備えており、拍子抜けするほどあっけなく走り始めたからだ。
小さな村中を難なく抜けて、高速道路に出た。いよいよその性能を知るときだ。まずは加速フィールを確かめるべく、マネッティーノ(ドライブモード切り替え)をRACEにスイッチしてアクセルペダルを踏み込んだ。
レスポンス鋭く力を発揮するV12エンジン。それに即応する堅牢なボディ。後輪がわずかにスリップしたところでまるで不安なく加速を続ける。姿勢は恐ろしく安定していた。レブカウンターはあっという間に9000回転へ。V12エンジンは全域で官能的なサウンドをコクピットに響かせつつ軽やかにまわり続けたが、なかでも6000回転台の音が印象的だった。
8速DCTの変速もまたドライバーを刺激してやまない。エンジン回転を鋭くカットし、瞬時にそしてダイレクトにギヤを繋いでいく。このままずっとギヤチェンジしていたい気分になった。
レーシーないでたちにも関わらず、高速クルーズ時の乗り心地はとても良好だった。他の跳ね馬でも必ず試すようにWETモードで走ってみると、ステアリングフィールがしっとりと落ち着き、矢のように直進する。WETモードは最近、跳ね馬に乗るときのお気に入りで、普段ならそのままで高速道路を流すところだったが、今回ばかりはSP3のV12フィールを忘れることができず、すぐさまRACEモードへと戻してしまった。
高速道路を降りると欧州の典型的なカントリーロードが続いた。あいにく小雨がぱらつき始める。濡れはじめのアスファルト、しかも油の浮いた新しい舗装にミドシップの超高額ハイパワーモデル、となれば大人しく走ろうと思うのが普通だけれど、そこまでの半時間ほどの高速ドライブですっかりマシンに対する信頼ができあがっていたからだろう。気にすることなく、攻め込んでいく。ドライブモードはSPORT。
見知らぬワインディングでもいきなりリズミカルに、踊るように走る。まさにダンスパートナーだ。シャシー制御と重量バランスのもたらす絶大なる安心感を背景に、V12の官能フィールを貪り尽くしつつ、右へ左へとマシンを向けて進んだ。
ステアリングは入りも戻りも驚くほど精緻だ。つねに前輪の状態を伝えてくれるうえ、急な展開のブレーキングでもマシンは不安なく減速する。知らず知らずのうちに様々な悪条件を忘れてペースアップ。しまいには自分でも驚くような速さで駆け抜けていた。今まで味わったなかでも最高レベルに楽しい跳ね馬ロードカーである。
自然吸気12気筒ミドシップのロードカーはひょっとしてこれが最後かも知れない。新たな歴史の1ページに“参加”できて、スーパーカーマニアとしてはこれほど嬉しいことはなかった。