小型パーソナル・モビリティとしてのEVの先駆け
19世紀末に実用化されたガソリン自動車は、すでに実績のあった蒸気自動車や電気自動車とも競いつつ、やがて20世紀を代表する主要な動力源となり、長きにわたって君臨してきた。しかし時代は今や「SDGs(持続可能な開発目標)」がより重要視される21世紀となり、今後は電気自動車がより普及していくと予想されるが、これまでの長い自動車の歴史を振り返ってみても、注目されるべき「過去の電気自動車」は決して少なくはない。
ドイツ占領下でも「個人の移動の自由」を追求したフランス人の矜持
1939年9月1日、ドイツ軍がポーランドに侵略を開始。翌日にはイギリス、フランスがドイツに宣戦布告し、第二次世界大戦が勃発した。翌1940年5月、ついにフランスに侵攻を開始したドイツ軍の進撃速度は凄まじく、数週間後の6月にはパリが陥落。その後休戦協定が結ばれ、フランスは約5年にわたりナチス・ドイツの占領下におかれる。ルノーやプジョーをはじめとする自動車メーカーの多くも、ドイツ軍のための軍需物資の生産を余儀なくされ、また、ガソリンなどの生活必需品も統制され、市民は物心両面で不自由な生活を強いられたのである。
「ドイツ人が発明し、フランス人が実用化し、イギリス人はそれで遊ぶ」と言われた自動車。すでに1930年代には都市部を中心にモータリゼーションが進み、その恩恵を享受していたフランス市民にとって、ガソリン入手が困難で移動の自由もままならない占領下の暮らしは、さぞや息苦しかったことだろう。しかし彼の地の人々はそんな困難な状況下でも「個人の移動の自由」を決して手放すことはなかったようだ。木炭自動車、電気自動車、果ては人力のペダルカーまで、人々は占領下にもかかわらず、さまざまなパーソナル・モビリティを生み出していった。