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プジョーの80年前の電気自動車「VLV」を知ってる? 丸目一灯がお洒落でカワイイ小型モビリティはなぜ作られた?

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TEXT: 長尾 循(NAGAO Jun)  PHOTO: 長尾 循/Stellantis

377台が生産された後輪駆動のマイクロEV

 ここで紹介する「プジョーVLV」も、そんな時代に生まれたささやかなパーソナル・モビリティのひとつだ。車名のVLVは「Voiture Légère de Ville(=Light City Car)」の略。ガソリンが優先的に軍需用に割り当てられるため、その制約を受けないバッテリーとモーターを使った電気自動車として1941年にプジョーが発表した。一見すると3輪にも見えるが、リヤはデフを持たない超ナロートレッドの4輪車である。

 フロントに12ボルトのバッテリーを4個搭載し、座席後方下部のシャシーに搭載されたモーターで後輪を駆動する。乗車定員は2名で、最高速度は36km/h。航続距離は70~80kmと言われた。今回紹介しているミニカーは、かつてフランスのノレブからリリースされていた1/43モデルだ。

 全長×全幅×全高がそれぞれ2670mm×1210mm×1270mmと、軽自動車よりもさらにふた回り以上も小さい極小の乗用車。占領下ということもあり、VLVの生産台数はわずか377台だったという。あらゆる点において、その電気自動車としての性能は現代のそれらとは比べるべくもない。しかしプジョーVLVは単に「物資不足の戦時下にあり合わせの資材で作られた原始的な電気自動車」ではない。

 肝心なのは、ドイツ占領下で多くの乗用車やトラックを軍に徴用されたプジョーが、軍用には転用すべくもない、しかし市民の権利として決して譲れない「個人の移動の自由」のために、このVLVを生み出したという事実だ。じつはプジョーVLVは、市民のための自由な「ノリモノ」であると同時に「ココロザシ」だったのである。

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  • 長尾 循(NAGAO Jun)
  • 長尾 循(NAGAO Jun)
  • 1962年生まれ。デザイン専門学校を卒業後、エディトリアル・デザイナーとしてバブル景気前夜の雑誌業界に潜り込む。その後クルマの模型専門誌、自動車趣味誌の編集長を経て2022年に定年退職。現在はフリーランスの編集者&ライター、さらには趣味が高じて模型誌の作例制作なども手掛ける。かつて所有していたクラシック・ミニや二輪は全て手放したが、1985年に個人売買で手に入れた中古のケーターハム・スーパーセブンだけは、40年近く経った今でも乗り続けている。
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