ひとりで最後まで担当するエンジン組み立ての工程とは
各マイスターにはエンジンと工具類を載せるためのキャスター付きカートが与えられる。まず、何も取り付けられていないエンジンブロックを自分専用のカートに載せることからスタート。そして、彼らはそれとともに工場内をコース順に従って進んでいき、各工程で必要なパーツを正しい順番で正しい位置へスムースかつ正確に取り付けていく。クランクシャフトを組み付けたら、次の場所に移動してピストンを組む。また移動して、今度はシリンダーヘッド、次はカムシャフトといった具合だ。
同時に、ボルトの締め付け具合などの精密検査も重ねて行う。ハンドメイドとはいえ、各ポイントには最新鋭の工作機械が用意されている。天井から吊り下げられた工具が良い例だと言える。例えば、この最新鋭の工作機械でボルトが仮に斜めに入った場合、わずかな圧力を感知して工作機械が即座に止まるシステムだ。
メルセデスAMGでは、いつ誰がどの部分を作業して何をしたか、すべて工具と連動し記録されている。もちろん、締め付けトルクなどの数値データも記録されているので、各メカニックが責任を持って組み立てる。つまり、性能云々はもちろんだが、信頼性が第一主義なのである。
本来、AMGのエンジン部品は世界最高水準の精度を誇るメルセデス・ベンツが定めた許容範囲のさらに半分という、驚くべき高精度を追求している。こうした超高精度の部品を熟練したマイスターたちが細心の注意を払って手組みで仕上げることで、AMGのエンジンは求められるパフォーマンスを確実に発揮できるようになる。加えて、AMGのエンジンテストは、最高6700rpm、連続2300時間、摂氏970度という条件のなか、最先端の試験機を用いて行う。実際の使用条件を遥かに超えた実験に耐えることで、AMGの揺るぎない信頼性を生み出しているのだ。
現在ではAMGのラインアップが増えたことで棲み分けがはっきりしている
なお、ライン製造のM256直6ターボエンジン(53系モデル)、M276 V6ツインターボエンジン(43系モデル)、M260直4ターボエンジン(35系モデル)には、このマイスターのサインプレートは貼付されていないことを追記しておこう。
そのおもな理由は、メルセデスAMGエンジンや車種の多様化と生産台数が増え、手組みはすべてのエンジンに必要でなくなり、ライン製造されるようになった。
つまり、53、43、35系モデルに搭載されているAMGエンジンは純然たるメルセデス・ベンツのライン製造エンジンなので、マイスターのプレートは貼付されていないわけである。AMG党からすれば、このマイスターのプレートが貼っているか否かが議論の的となっていることは事実である。
※ ※ ※
メルセデスAMGモデルの最大の魅力のひとつは、このようにエンジンである。そんなメルセデスAMGの高性能に魅せられた、オーナーたちの声などを後編ではお届けしよう。