EVを巡る状況が変わり続けるなか、「今」のロングドライブ事情を検証
軽EVの日産サクラ&三菱eKクロスEVの受注が好調のようだ。軽自動車を日常の足として使っていて、1日の走行距離や移動範囲がある程度限られている人にとっては、満充電からの走行可能距離が百数十kmほどあれば不足ないというのもうなずける。家庭用の普通充電システムも補助金を含めれば5万円台から取り付けられるとなれば、家に戻ったらまず充電、というスマホでも慣れきったスタイルで使えるのだから。
たまに遠方に行く際には、とくに地方部では珍しくない1人1台の所有スタイルのなかで、家族所有の少し大きなクルマで出かければ困らないということなのだろう。
一方で、BEV(バッテリーEV)で遠方に出かけるのはどうなのか。私のように、多くの新型車に乗る機会を与えてもらっている者にとっても、じつはBEVでの遠方移動は、できれば避けたいと思っているのが正直なところだ。これまでも都内から箱根~伊豆あたりまでは何度か出かけてはいるが、今回はもう少し足を伸ばして「しっかり乗ってみる」ということで、日産アリアで山形を目指すことにしてみた。
渋滞下では微妙な加速のコントロール性が光る
日産アリアのすでに販売されている「B6」は、アリアのなかでは駆動用バッテリー容量が小さい方の66kWh。2WD仕様だが、それでも車重は1920kgある。WLTCモードによる一充電走行距離は470kmである。
ウチの駐車場は充電設備がないため、山形に向けてはのスタートは、満充電から79km走った状態で、バッテリー残量81%、走行可能距離334kmからとなった。このときに表示されていた電費は6.0km/kWhである。
出発してすぐ、いつものごとく首都高速の渋滞に見舞われるが、EVの強みのひとつが低負荷、つまり低速域での電費に優れることで、気になるのは時間とエアコンによる電力消費くらい。しかもエアコンによる電力消費は思っていたより少ないようだ。
渋滞下では日産EVの美点である微速発進域の微妙な加速のコントロール性の良さが光る。一方の減速域は、どのドライブモードを選ぶかで大きく変わる。渋滞域ならノーマルモードとしておくのが扱いやすいかもしれない。なお「eペダル」は、個人的にはブレーキランプが無闇に点灯するのがとても気になるので、ワインディングくらいでしか使わなかったのだが、これがラクと思う人がいるのは否定しない。
高い直進安定性に比べると気になる乗り心地
今回のアリアでのドライブで確認したかったのは、ひとつは実電費と充電効率。それと、初めて乗った際に「これはキツい」と思わされた乗り心地であった。その乗り心地は、日産グローバル本社から都内自宅まで一般道で走った際にも、やはりよく揺れると思ったが、首都高速では「ダメかも」となり、そして東北自動車道を北上しだしたころには、「これで山形まで行くのは嬉しくないかも」と思い始めていた。
とにかく揺れが気になる。リヤ側からの突き上げとそれにともなうバウンシング。頭が揺すられ背中がシートバックに小刻みに擦れるような感覚も付いて回る。路面によってはそれほど気にならないときもあるにせよ、目に見えないあるいは気づかない路面の凹凸をすべて拾い上げていくといった印象だ。直進安定性は高く、クルマは真っ直ぐに走ってくれるのだが、そこで上下に、そして左右にも揺れる。
内外装ともに、日産車のなかで一番モダンで上質に仕立てられており、いわゆるショールームクオリティには長けているだけに、このギャップは「惜しい」を通り越して、「どうしちゃったの」という疑問に変わってくる。
淡々と高速道路を走りながらもこの乗り心地は気になり続け、早々に西那須野塩原インターで降りることにした。ここからのルートだと、那須塩原から南会津~米沢~山形というちょっとしたワインディングから川沿いの爽快なカントリー路、郊外路、街中など変化に富む。
充電器が低出力だったり故障中だったりするのも「あるある」
当初はバッテリーのエンプティぎりぎりまで走らせようとスタートしたのだが、一般道でいろいろな充電状況を試してみる方針に変更し、トイレ休憩に寄った「道の駅 たじま」で1回目の充電。満充電からの走行距離250kmでバッテリー残量38%、走行可能距離153kmと表示されているので、まだ十分に走れる状態だ。
しかし、この道の駅の充電器は出力30kWと低く、30分の充電でバッテリー残量は+9%、走行可能距離もわずか+36kmしか増えなかった。アリアのバッテリー冷却は水冷式で、手前のワインディングを軽快に走らせてきたとはいえ、それほど温度が上がっていないはずだし、これでトイレ休憩含めても30分以上のロスは嬉しくない。
そして途中、ちょっとした観光スポットなどを通過しながら、そろそろ充電をと考えていたところ、また「EV急速充電あるある」に遭遇する。アリアのナビ上では使えることになっていたので寄った「道の駅 喜多の郷」の充電器が故障中だったのだ。そこには7kmほど離れた日産ディーラーへ行ってと書かれていた。
つまらないロスだと思いながら、紹介されていた福島日産へ向かうと、リーフが充電中でもう1台待ち状況。ここは私のミスで、ナビ上には使用中かどうか表示されるのに確認を怠ったまま行ってしまったのだった。仕方なく、ほど近いもう1軒の福島日産ディーラーへと向かうと、こちらは空いていた。
EVで遠方に出かけたときは日産ディーラーが頼みの綱
こう文句を言いつつも、EVに乗って地方へ出かけた際は、日産ディーラー様々である。24時間充電可能だし、滅多に故障していることもない(今回、日産ディーラーで立ち寄ったところでは故障中を経験)。充電に困ったときには日産ディーラー頼みであるのは、ホンダやトヨタがEVに参入してきた今も変わらない。
バッテリー残量18%・走行可能距離88kmで充電開始。30分で55%・269kmまで回復した。この時点での電費は6.6km/kWhであった。電費を少し意識してエコモードでひたすらコースティングを多用した走行で得た数値である。エコモードでもエアコンへの影響は感じさせないので、夏場でも躊躇なく使える。また回生が効率的と思えるシーンではノーマルモードでBレンジを積極的に使うようにしたが、コンソール上のモード変更のタッチスイッチがブラインドタッチでは操作できず、これが結構なストレスとなった。
その後、レストランでの食事中に近くにあった日産プリンス山形で充電。ここでは残り44%から充電して87%、走行可能距離438kmまで回復した。しばらく街中がメインの走行で負荷が小さくバッテリー温度もおそらく安定していたこと、外気温も27℃と暑くなかったことなど条件もよかったようだ。
最新の100kW急速充電器が山形にも上陸していた
山形市内に宿泊した翌日は、天童市を抜けて酒田に向かうことにした。ちょっとしたハンドリングチェックも兼ねて、空気も澄んだ天童高原に向かう。良いワインディングで知れるのは、前輪駆動のEVにとっては、モーターのレスポンスの良さが必ずしもプラスにならない点だ。上り坂でのタイトコーナーでは、前輪接地荷重が抜けていることもあり、コーナーからの脱出に向けて加速を意図したアクセルの踏み込みと同時に一瞬空転して、その瞬間にアンダーステアに転じてしまう。
当然、直後にトラクションコントロールと出力制御に入り、ドライバーもアクセルを戻すことになるので、前輪に荷重が戻ると同時に姿勢も戻るが、そこはドライバーの意図をくみ取りつつもう少し繊細なデバイス介入ができないかと思うのだった。
せっかくなので、少し足を伸ばして日本海側の酒田市を目指すことにする。昨晩に88%まで充電できていただけに、バッテリー容量をまったく気にせず余裕で酒田港に着いて、せっかくなので軽く魚料理などを食べ、さらっと観光して寒河江市に戻り1泊。本来、ここの温泉宿に備えられた普通充電器で充電をしておこうと考えていたのだが、これが先客ありで使えなかった。これもまたEV充電あるある、である。
ということで、翌朝、宿からもほど近い山形日産寒河江店に向かう。新しい店舗だなと思ったら、充電器も最新の100kW仕様が備えられていた。アリアと見て笑顔で迎えてくれたセールスレディは「ウチにアリアがいらしたのはまだ2台目です」と話してくれた。綺麗なショールーム内でコーヒーとお茶菓子をいただいている間に、バッテリー残量35%・走行可能距離175kmの状態から30分充電で88%・440kmまで回復したのだった。
1300kmの平均電費は6.7km/kWhときわめて優秀
今回は、時間に余裕をもったひとり旅的な動きとしていたのと、現実的な充電インフラを知る目的もあったので、あちこち充電に寄ってはみたが、現実的にはやはり無駄な時間を費やす必要が生じてしまう。
車両の駆動用バッテリーが大きくなればなるほど、満充電時の航続距離は伸びても、それに応じた大出力の急速充電器が必要になる。テスラや一部輸入EVでは大出力充電設備を整備しているが、結局、目的地やルートから離れていれば、わざわざ「寄る」ということになる。そうした課題は、まだまだしばらく付いて回ることになるのだろう。
結局、寒河江からは赤湯温泉などいくつか寄り道しながら戻ってきたので、往復の移動距離は約1100km。帰路で立ち寄ってみたショッピングモールの急速充電器は故障で使えなかったなど、思ったタイミングで充電ができないことも強く印象に残ることになった。その間、都内に戻るまでに、20kWといった低出力の充電器の使用も含めて、充電回数は7回。その後の走行も含めると都合1週間で計約1300km走らせて、さらに一度急速充電をしたが、最後まで充電への煩わしい思いは付いて回った。
ただし当たり前のことだが、現状でEVに乗るにあたって、家に充電環境が整っていることで、かなりの部分が解決される。一方で長距離移動となると、行きはよいよいで、帰りがこわいかどうかは充電インフラ次第で、かつそれが待ち時間など含めて円滑に使用できるかが課題となる。
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日産アリアB6に関していえば、例の乗り心地は次第に少し慣れてはきた。それでも、早い段階で改善を望みたい思いに変わりはなかった。それ以外は走りの面から使い勝手まで良くできていることも知れたし、電費は今回の1300km走行の平均で6.7km/kWhとなかなかのもの。高効率空調のおかげもあり、エアコンをつねに作動させた走行でも、WLTCによる走行距離の9割超えは立派だ。実電費が、掛け値なしに優れていることが知れたのは大きな収穫だったが、BEVでの長距離移動では、時間にも心にも余裕が必要であることを再認識することになった。