今では聞かなくなってしまった「デートカー」とは
デートカー、またスペシャリティカーとも呼ばれたが、どちらも聞かなくなって久しい。最近ではデートにクルマは必ずしも必要ないなど、クルマ離れも含めたいろいろな事情が背景にあるのだろう。
と、言いたいところだが、デートカーブームがあった1980年代後半から1990年代前半を振り返ってみると、少々違う。クルマがあればいいというものではなく、クルマを持っているというのは当たり前。そこがまず重要なポイントで、現在からすると想像もつかないかもしれない。
クルマがあればOKというわけではない
まず、当時の状況はというと、大学生や若いサラリーマンがクルマを持っているのは珍しいことではなく、高校を卒業したらすぐに免許を取って即クルマを購入するというのも珍しくなかった。バブルゆえ、大学生であっても楽々とローンで買うことができ、お坊ちゃまなら親に買ってもらったというパターンもあった。つまり、クルマさえ所有していればデートに使えるというような話ではなかったのだ。
ではデートカーとはなにかというと、「女子大生にモテるクルマ」。そのひと言に尽きる。クルマとしての装備が云々というのもなくはなかったが、まずは「みんなが乗っているクルマ」が基本。チャラチャラした大学生なんぞと一緒にされるのはイヤだ、という層は今より沢山いたが、そういう人は30万円ぐらいで買える中古のシビックに乗ったり、当時はまだ底値だったハチロクなどでドリフトしていたものだ。
誰もが乗っているというのがひとつの条件
デートカーに話を戻すと、具体的例を挙げればまずトヨタの白いマークIIに始まり、初代&2代目ソアラ。バブル期の真骨頂となると、日産のS13型シルビアとホンダの2代目&3代目プレリュードが真っ向対決していた。輸入車勢ではメルセデス・ベンツ190EかBMW320iあたりが人気だった。
最近の取り上げ方を見ると、レパードあたりもデートカーに含まれているが、たしかにスタイルの方向性は上記のクルマたちと同じで、日産がソアラに対抗して出したのは確かではあるが、デートしているシーンは当時ほとんど見なかった。その理由は、やはりクルマの良し悪しよりもみんなが乗っているかどうか、だ。
強いて言うなら、クルマのジャンルとしては4ドアならサルーンで、あとは2ドアクーペというのが基本と言えるだろう。ただ、最初に紹介したようにあくまでもモテるクルマなので、女子からしてみればジャンルやカテゴリーはどうでもよく、「乗って恥ずかしくなくて、センスがよかったり、お金持ってそうに見えるクルマ」であればいいとされた。1980年代はスキーブームもあり、クロカンも女子ウケはよかった。だが、それはスキーの足として人気があっただけで、街乗りとなるとセンスやお金持ちに見える点で少々弱かったように思える。
装備のチョイスもモテるかどうかで決める
結論として、デートカーとはクルマそのもののムーブメントというより、クルマはモテるため、そしてデートの道具だったというのが正しいだろう。筆者は当時大学生で、別にデートカーには興味がなかったが、冗談抜きで街にはシルビアやプレリュードがいっぱい走っていて、運転しているのは大学生らしき人たち。サマーセーターを肩から掛けて、助手席には女子大生が乗っていたものだ。
サマーセーターなどのスタイルは、これまた雑誌『ホットドッグプレス』の受け売り。つまり、デートカーとデートマニュアル、このふたつが時代を作っていて、大半の人はデートマニュアルに掲載されていたからシルビアやプレリュードに乗っていたというだけで、性能がスゴイなどクルマありきのブームではなかったように思う。装備もモテるというのが基準で、例えばシルビアのヘッドアップディスプレイはその代表格だ。
ちなみにデートカーに乗っていないとモテないかというとそんなことはなく、イケてる女子大生とはデートができないというだけで、クルマ好きの女の子もけっこういた。普通にクルマでデートをしていたし、ハチロクに乗って深夜の峠に行くなんてこともあった。
最後に、デートカー、そしてスペシャリティカーの定義として当時見たなかで印象的な表現を挙げておくと「なくても困らないクルマ」というのがあった。まさに言い得て妙な言葉だ。