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マツダ「コスモAP」は昭和の斬新スタイルだった! いま見てもカッコいい高級スペシャリティカーとは

真っ赤なボディも印象的だったコスモAP

 近年、テレビのCMではデザイン性をアピールすることの多いマツダですが、そういえば昔からスタイリッシュなクルマが少なくなかったことが思い浮かんできます。なかでも、ゴージャスさでは3本の指に入るのが1975年に登場したコスモAPです。モデル後期にはランドウトップ(ルーフの後ろ半分を革やビニールレザー張りしたもの)のLも登場した、2代目コスモAPを振り返ります。

ロータリーを搭載したゴージャスなグランツーリスモ

 初代コスモスポーツ(L10A/L10B型)の生産が終了してから、約3年後の1975年10月にデビューしたCD型系のコスモAP。2代目とするかは意見が分かれるところですが、コスモスポーツと並行して初代のルーチェ・ロータリークーペを置いてみると、マツダのフラッグシップという括りより一歩進めた2ドア・クーペのグランツーリスモというコンセプトが見えてきます。

 そしてその後継の位置に2代目ルーチェ、LA2型系の2ドア・クーペを置いてみると、CD型系コスモの立ち位置が、より明確に見えてきます。初代のルーチェ・ロータリークーペから2代目ルーチェの2ドア・クーペ、そしてCD型系のコスモAP、とデザインテイストは紆余曲折があり、メカニズム的にも初代のルーチェ・ロータリークーペはマツダのロータリー・エンジン搭載モデルの中で唯一、前輪駆動のレイアウトでした。いずれにしても、ゴージャスなグランツーリスモというコンセプトは首尾一貫していました。

 そんなCD型系のコスモAPですが、メカニズム的には2代目ルーチェ、LA2型系のシャシーをベースに各部をブラッシュアップ。搭載されるエンジンはいずれも2ローターの13B/12Aか1.8L直4のレシプロエンジンから選ぶことができました。ちなみに、コスモAPのAPはAnti Pollutionのイニシャルをつないだもので、公害対策を意味しています。メカニズムについて、少し詳しく見ていきましょう。

 2代目ルーチェ用をベースにブラッシュアップされた、と紹介したコスモAPのシャシーですが、大きな違いはサスペンション。フロントのロアアームをAアームとしたマクファーソン・ストラット式独立懸架は2代目ルーチェ用と共通でしたが、リヤは進化が見られました。

 リジッド・アクスルという意味では変わりなかったのですが、ルーチェがリーフリジッドだったのに対してコスモは4本のコントロールアームに。左右をコントロールするラテラルロッドが加わった5リンク式で、これをコイルスプリングで吊るタイプに変更されていました。

 ブレーキも、ルーチェがディスク/ドラムの組み合わせだったのに対し、コスモは4輪すべてにサーボ付きのディスクブレーキを配していて、しかもフロントにはベンチレーテッド式がおごられていました。

 搭載されたエンジンは、13B(総排気量は1308cc=654cc×2ローター。最高出力は135ps)と12A(総排気量は1146cc=573cc×2ローター。最高出力は120ps)という2種類のロータリー・エンジンと1.8L直4SOHCのVC型(ボア×ストローク=80.0mmφ×88.0mm。最高出力は85ps)の3種類がラインアップされていました。途中から2L直4SOHCのMA型(ボア×ストローク=80.0mmφ×98.0mm。最高出力は90ps)も追加設定されています。注目すべきはコスモAPのAPたる所以です。

 搭載されていたロータリー・エンジンはREAPS(Rotary Engine Anti-Pollution Systemの略称)と呼ばれる公害対策が施されるとともに、ロータリー・エンジンのウィークポイントとされていた燃費の改善でも大きな進歩を見せていました。

 もちろん、レシプロ・エンジンのVC型や、1977年に追加設定されたMA型も、登場年度で有効な排気ガス対策をクリアしていたことは言うまでもありません。とメカニズムの話はこれくらいにしておいて、いよいよ本題、コスモAPのスタイリングを紹介していきます。

5ナンバー枠でもおおらかなデザインは十分可能

 コスモAPのスタイリングは、基本的なシルエットとしてはファストバックの2ドア・クーペですが、Bピラーのデザイン処理が独特でした。Bピラーの幅を広げてその中に小さなウインドウを設けたもので、3枚のウインドウが並んだサイドビューは、初めて見たときからとても印象的です。

 少なくとも国産モデルには相似したデザインは見ることができません。驚くべきは、このおおらかなボディが5ナンバー枠に収まっているということ。ちなみにボディサイズは全長×全幅×全高が4630mm×1685mm×1325mmです。

 デザインする上で、とくに全幅1700mmの制限に無理があるとして昨今多くのクルマが5ナンバーに収まらなくなっていますが、このコスモAPを見ていると、それが単なる言い訳のように思えてなりません。

 これをデザインしたのは初代RX-7をデザインし、のちにマツダで初のデザイン本部長を務めた前田又三郎さん。ちなみに、2009年にマツダのデザイン本部長に就任し2010年にデザインテーマとして「魂動-Soul of Motion」を発表した前田育男さんの父親でもあります。さらに、1977年にはランドウトップを採用したコスモLが登場しています。

 これはメカニズム的には大きな変更点はありませんでしたがスタイリングが大きく変更されていました。コスモAPがファストバックの2ドア・クーペなら、こちらはノッチバックの2ドア・クーペ。ルーフとピラーのデザイン処理が独特でした。そもそもコスモLのLはLandau Top(ランドウトップ)のことで、これは馬車時代の車体形式のひとつ。

 近代的な乗用車でいうなら前席部分は通常のルーフで覆われていて、後席部分のルーフがソフトトップ(幌)になっている……いわゆる後席部分の幌のみが折りたためてオープンシーターとなる、パレード用車両に使用されるボディスタイルです。

 コスモLはそんなLandau Topをイメージしていて、BピラーとCピラーを一体式にして、その中にオペラウインドウを設け、さらにルーフの後半とB+Cピラーをレザートップ風に覆っていました。このデザイン処理で、ファストバックの2ドア・クーペとはまた違ったゴージャスさが演出されていたのです。

 プロモーションでもゴージャスさが強調されていました。イメージキャラクターにモデルの宇佐美恵子さんを起用し、しばたはつみの『マイ・ラグジュアリー・ナイト:作詞・来生えつこ/作曲・来生たかお』をCM曲に採用したところこれが大ヒット。コスモの販売の追い風になったに違いありません。

 個人的な好みの問題かもしれませんが、コスモAP/コスモLはベストスタイリングの1台です。そしてその印象を際立たせたのが、大学時代の友人のエピソードです。4年間の学生生活を終え故郷に帰ることになった友人は、最後の思い出に、と松山市内でも屈指のレストランに、当時付き合っていた彼女を夕食に誘い、食事を終えて店を出て、別れ際に「今度はコスモで迎えに来るから」と宣ったのです。

 余計に勉強したくて(?)大学に残ることになった落ちこぼれにとって、この友人のエピソードはとても輝いていたことを、まるで昨日のことのように、今もはっきりと覚えています。尤も数年後、彼から結婚の報告が届きましたが、奥さまは件の彼女ではなかったような……。

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