ワークスの代名詞「NISMO」を超える勢いでブランド力を強化中
これまでワークス系の代名詞といえば「NISMO」だった。コンプリートカーを発売し、全国のディーラーに高度なメンテナンス&整備を可能とした「NISMO PADDOK」(現NISMOパフォーマンスセンター)というネットワークを構築。その名前を全国区とするなどワークスチューンの先駆け的存在であり、先端を走っていた。
ただ、そのNISMOに代わって、現在ワークスチューンとしてもっとも勢いがあるのはトヨタの「GR(GAZOO Racing)」だ。ちなみにGAZOOとは豊田章男氏が立ち上げたポータルサイトの名称で現在も存在している。
GRの活動範囲が広がった2009年に初のコンプリートカーが登場
コンプリートカーのラインアップも多く、それにともないGR専用パーツも充実。それら車両や商品を取り扱うブランド拠点「GRガレージ」は、NISMOパフォーマンスセンターの28店舗に対して今や62店舗(2022年9月7日現在)。活動が自動車雑誌を通じて大きくクローズアップされるなど、規模だけでなく勢いという点でも上まわっているのだ。
GRの発端は2007年のニュルブルクリンク24時間レース(以下ニュル)に参戦した社内チームの活動まで遡るが、本格的に動き出したのは豊田章男氏がトヨタの社長に就任した2009年から。
ニュルでの活動は「新車開発の聖地ニュルブルクリンクで人とクルマを鍛える」という明確な目標を掲げ、新車発表前の「LF-A」(新車販売時の車名はLFA)や「FT-86」(新車販売時の車名はトヨタ86)を投入し参戦を継続。新車マーケットでは「クルマ好き・クルマファンの拡大」をうたい、サーキット体験走行やイベントを開催する。さらにモータースポーツ参戦で得たノウハウをフィードバックして開発したコンプリートカー(GRMN、G’s)を販売するなど活動の範囲を広げている。
GRMNはボディやエンジンにまで手が加えられた究極のスポーツモデル
2017年にはさらに体制を強化し、前述したGRガレージを全国に展開。コンプリートブランドをピラミッド構造で再編成(GRMN、GR、GR SPORT)し、現在に至っている。
それらの頂点に位置する「GRMN」は「GAZOO Racing tuned by Meister of Nürburgring」の略で、GRコンプリートカーの最上位かつ究極の限定スポーツモデルとして開発(改造車となるためすべて持ち込み登録)。モータースポーツでもへこたれないポテンシャルを持たせたるため、メーカーでしかできないホワイトボディ状態での補強やエンジンのファインチューン、車種専用で開発されたスペシャルパーツが採用されたメーカー謹製のチューンドだ。
GRMNの記念すべきファーストモデルの登場は2009年。ベースとなったのは「iQ」で、欧州仕様の1.3Lエンジン+6速MTに専用サス、ボディ補強、モデリスタエアロ、マフラーが装着された程度で、最新の「GRMNヤリス」と比べると比較的ライトな仕様だった(100台限定)。
人の手を介して丁寧に作り上げるゆえの限定販売
その後は2012年の「iQ GRMNスーパーチャージャー」(1.3L、100台)、2013年の「ヴィッツGRMNターボ」(1.5L、200台)、2015年&2019年の「マークX GRMN」(3.5L、100台&350台)、2016年の「86 GRMN」(2L・NA、100台限定)、2018年の「ヴィッツGRMN」(1.8Lスーパーチャージャー、150台)、「GRMNヤリス」(1.6Lターボ、500台)を発売。計7車種8台(欧州の「ヤリスGRMN」と販売されていない「センチュリーGRMN」を加えると9車種10台)は、量産コンプリートカーであるGR SPORTの28台(全世界)と比べると圧倒的に少ない。
これは人の手を介し、丁寧に作り上げるモデルのため量産が難しいことが一番の要因。それゆえに車両販売価格も量産車の2倍以上と高額になるが、新車価格を差し引いた費用を使いカスタマイズを施した場合、尖がった性能は出せても、総合力を鍛え上げることは正直難しい。加えてこうしたスペシャルチューンドモデルながら、メーカー保証が付く安心感も魅力的。トータルでメーカーコンプリートカーの魅力が勝る。
GRの最上位であるだけでなく、スポーツカーを楽しむ裾野を広げる役目も!
また、GRMNヤリス用に開発されたパーツが秋以降に販売される予定ということも、車両発表時にアナウンスされており、既存オーナーが長く楽しめる環境作りにも余念がない。つまり、GRMNは高性能な限定車を提供するするだけでなく、スポーツカーを楽しむ裾野を広げる役割も担っていくというわけだ。これは、今後の発展性を考えるとほかのGRオーナーにとっても朗報だろう。
GRガレージのコンセプトは「町一番の楽しいクルマ屋さん」。その目標に向かって着実に歩みを進めている。アフターパーツメーカー&ショップにとっては脅威でしかないだろう。