GT-R専門誌の「顔」として創刊から現在まで活躍中!
GT-R Magazineの創刊を機にスタッフカーとして導入された、R32スカイラインGT-Rの最終モデル。あと数カ月待てばR33GT-Rが登場することはわかっていたが、あえて「旧型」となるR32を選んだ。仕様変更を繰り返しつつ25年間を走り続け、現在の走行距離は44万kmオーバー。この25年以上走り続けてきたR32GT-Rに起きたトラブルやチューニング、メンテナンスの歩みを振り返ってみたい。
初出:GT-R Magazine 153号
【これまでの歩み】GT-Rを扱うからにはGT-Rに乗らなければならない
平成6(1994)年10月28日。BNR32VスペックIIは編集部にやってきた。工場をラインオフしたのはVスペックIIの最終生産車と同じ10月13日。GT-R Magazine創刊(000)号の発売が同年11月30日であり、その約1カ月前にスタッフカーとしてチームに加わったのだ。その後一気に慣らしを行い、1000km点検までを創刊号の誌面で紹介している。
「GT-Rという看板を背負うからには編集部も所有していなければならない。自分たちで乗らなければGT-Rの真のよさは見えてこない」
GT-R Magazine創刊当初の信念はその後も変わることなく、歴代の担当に受け継がれている。ちなみに弊社社有車には珍しく、自動車保険で30歳以上と年齢制限が設けられていた。つまり、若造は軽々しく動かすなよ、ということである。GT-R Magazine編集部だけでなく、社をあげてGT-R Magazine号(以下R32VスペII号)を特別視し、大切に扱おうという姿勢が見られたのを記憶している。
クルマ好きならば当時誰もが憧れたGT-R。現在のチューニング界を築き、大きく進化させたのもR32だと言われている。そして恐らく自動車雑誌業界においても、GT-Rに憧れてこの世界に足を踏み入れた者が少なくない。だからこそ、R32からR33へ代替わりする直前にGT-R Magazineは創刊し、最終型を手に入れた。創刊から月号ではなく3桁の数字で表しているのも、後世にその偉業を伝え続けたいという思いがあったからだ。
【これまでの歩み】時代に合わせて積極的にチューニングを施した時期
だが、ただ大切に愛でるだけではない。わずか5000kmほど走った時点でエンジンを開ける。N1耐久レースで実績のあった『サイマー』にて、超精密オーバーホールを実施しているのだ。その後も仕様変更やテストを繰り返す。今と違って当時はチューニング全盛期であり、ハイパワーが偉いという風潮。常に読者と共に歩むべく、R32VスペII号に求められることは時代ごとに変わって当然なのかもしれない。
走行10万kmを達成したのは2000年の030号。2度目の車検を受けた2カ月後のことだ。その後20万kmは2004年054号、30万kmはエンジンとボディの完全オーバーホールを終えた後の2011年096号、そして40万kmは2018年141号で到達している。完全オーバーホールを機にサーキットテストなどは減り、徐々に走行頻度も少なくなってきてはいる。しかし、現在もなおスタッフカーとして現役。撮影だけでなく、日頃の取材の足として年間1万km程度は距離を延ばしている。もちろん経年劣化は否めないが、致命的な痛手を負った記憶も記録もない。早めの対処が功を奏しているとも考えられるし、R32というクルマの強さが証明できているようにも思う。
現在、そしてこれからのR32VスペII号の役割は、他のR32に先立って距離を稼ぎ、どのタイミングでどんなトラブルが起きるのかをお伝えすることも一つと思っている。そしてGT-R Magazineが続く限り、走り続けることが与えられた最大の使命なのだと自負している。
【チューニング&メンテナンス】エンジン換装やサーキットアタックもこなす
000号で納車後すぐに慣らし運転に出掛けたR32VスペII号は、その後001号から『サイマー』にて超精密オーバーホールを実施している。つまり、工場出荷時の状態で走ったのはわずか5000kmなのである。その後1997年にはプロショップ『マインズ』とのプロジェクトを立ち上げた。筑波サーキット1分5秒台という目標を掲げ、『HKS』のGT2510タービンやカムを投入。足まわりはオーリンズを選択している。410psへパワーアップを遂げ無事目標を達成。ドライバーは桂 伸一氏が務めた。ちなみにアタックと同月に初めての車検へ。ユーザー車検を敢行して無事クリアした。
その後、走行5万km超えを機に『近藤レーシングガレージ』にて駆動系をオーバーホール。しかし、ほとんどダメージは見当たらなかった。021号では『ニスモ』のコンプリートエンジン、RB26スペックIを長期レポートで搭載。400psを誇るエンジンでタービンは400Rと同じRS595となる。走行5~6万km時で、1997~1998年あたりの話だ。当時はチューニングが盛んに行われていた時代であり、R32VスペII号もこうした変化が求められていた。エンジンだけでなく足まわりやホイールなども積極的に交換し、仕様変更を繰り返していたのだ。
10万kmを超えた時点で『ニスモ大森ファクトリー』のシャシー診断を実施。しかしこのときはリフレッシュを行わず、先に033号でニスモS1エンジンを搭載している。サーキットやワインディングでの試走でパワーを堪能するも、やはりシャシーの劣化は否めない。そこでついにシャシーリフレッシュを決断。ニスモ大森ファクトリーの手に委ねた。
044号から2号に渡り『田中オートサービス』に依頼してボディリフレッシュも行っている。今では考えられないことだが、錆だけでなく外装にも傷が多数。全塗装して甦らせている。
【チューニング&メンテナンス】ボディ、エンジン、内装、シャシーすべてリフレッシュ
057号にニスモで行った内装リフレッシュも大掛かりなものだった。シートの張り替えだけでなく、一度すべてをバラし、新品で入手できるものはすべて交換。製造廃止になっている部品は徹底して洗浄し、編集部のもとへ戻ってきたときには大袈裟ではなく新車の香りを漂わせていた。24万6000kmで搭載したオートギャラリー横浜の690Rミッションは一度オーバーホールを敢行しており、現在でも絶好調である。
10万kmまでは何の遠慮もなくチューニングに勤しみ、その後は徐々にメンテナンス重視にシフト。そして動態保存の感を強めたのは28万1000km時に行った「完全オーバーホール」である。この作業以前に25万km弱で2度目シャシーリフレッシュを行っており、ボディとエンジンを完全再生させることで、トータルでリセットしたこととなる。ボディは『カナザワ』ですべてをバラしてリフレッシュし、エンジンはS1エンジン2基目を投入。奇しくもR35が誕生した2007年に始まった作業であり、2008年の081号にて完成。生まれ変わったR32VスペII号は、当時の仕様を維持すべく、その後はほぼメンテナンスに終始している。
唯一チューニングらしいことは32万1000kmでS2エンジンにバージョンアップしたこと。そこから10万km超走った現在まで大きな変更はない。35万kmを超えるとメーター修理であったり各部のオイル漏れなどが発生するも、年式や距離を考えれば想定の範囲内。どんなに激しく走ってもここまで乗り続けられているのは、納車当時からオイル交換など日頃のメンテナンスだけはきっちり行っていたからだと思う。また、保存といってもあくまで動態。つまり走り続けているのが奏功しているように思う。
【トラブル&対策】定番の経年劣化は経験するも致命傷は負わず
創刊以来、いわば本誌の「顔」として25年間走り続けてきた。走行44万kmを超えているということもあり、さぞやトラブルも多いだろうと思われるかもしれない。しかし意外なほど大きな厄介事になった記憶がない。
もちろん、ドライブシャフトブーツの破損であったり、各部のオイル漏れであったりという、経年劣化が引き起こすマイナートラブルはひと通り経験している。だが、それが原因で走れなくなって困ったとか、エンジンがブローしたなどの大きな問題は経験ないのだ。
2007年にタービンアウトレットのボルトが欠落しており、V8エンジンのような音を出したことがある。すぐさま点検したところ、タービンも音が出ていて末期状態ということで交換となった。そのほかには4WD警告灯が点灯し、アキュームレーターを新品へ。場合によっては作動油の交換時にゴミなどが詰まりアテーサE-TSのシステムがダメになることもあるが無事復活を遂げた。直近では2020年4月にフロントのシャシーリフレッシュを行ったところ、助手席側のハブベアリングが焼き付く寸前だったということもある。気付かなかったら危なかった、ということは多いのだが、大ダメージとなる前にちゃんと発覚しているのだ。
やはり、運行日誌の取材も兼ねて定期的に各部を確認していることがトラブルを未然に防いでいる理由となるだろう。また、走り続けなければいけないという使命感から、R32VスペII号がギリギリセーフのところで信号を送ってくれているのかもしれない。
【トラブル&対策】40万km超で原因不明トラブルは増える
ただ、40万km前後くらいから、原因不明のトラブルが増えてきたように思う。さらに、経年劣化はわかっていても、純正品が製造廃止になっていて、打つ手がないという場合も。
38万kmくらいの頃、バッテリーが1週間程度で上がってしまうという問題に悩まされた。オルタネーターでもなく、配線修理後も変わらない。配線は換えられても端子がないのでそのまま使うため、劇的な変化がなかったのだ。その後ニスモ・ヘリテージパーツが登場したことでハーネス類を一部交換。これで飛躍的にバッテリーの持ちは長くなった。
ただし暗電流が多いという根本的問題は解決に至っていない。他にも現在気になるのは、タービンもしくはエアフロの不調があるかもしれない、ということ。さらにスピードメーターから異音がするので本当は交換したいが新品がない。フロントガラスに飛び石があるがガラスやモールが高価過ぎて二の足を踏んでいる。ハイキャス周辺にガタがあると言われていたが、こちらは2021年にリヤのシャシーリフレッシュを施し解決。
エアコンのセンサー不調が現れたり、細かい心配は常にあるが、エンジンはまだまだ大丈夫そうであり、ボディの錆などもほとんど見られない。走りは十分に楽しめているから問題はないと思っている。R32VスペII号の先はまだまだ長い。トラブルも楽しみながら少しずつ改善し、まだまだ付き合っていくつもりだ。