希少な限定車でもスタッフカーとしてガンガン走らせる!
2002年8月に生産が終了した第2世代のラストモデル「R34スカイラインGT-R」。「GT-R Magazine編集部」では初期型(’99年式)のVスペックに続き、2002年に発売された最後の限定車「V-spec II Nur(以下、ニュル)」をスタッフカーに迎え入れた。あれから20年が経過した今もなお、その存在感とドライビングプレジャーは健在である。フルノーマルからファインチューンまで、新車から30万km以上を駆け抜けてきたR34 ニュル号の足跡を辿ってみたい。
(初出:GT-R Magazine 153号)
N1仕様のエンジンはノーマルのままだと遅い!?
R32型スカイラインGT-R VスペックII、R34型スカイラインGT-R Vスペックに続き、GT-R Magazine編集部の3台目のスタッフカーとして平成14(2002)年に導入したのが「ニュル号」ことR34VスペックIIニュル。ご存知の通り、ニュルはR34のトリを飾る限定車として、VスペックIIとMスペックを合わせて300台販売するはずだったが、あまりの反響の大きさに500台→1000台と販売台数を拡大。しかし、それでも予約開始と同時にあっと言う間に完売してしまったという希少なモデルである。ちなみに、現在では中古価格相場が3000万円~5000万円と驚くほどの高値となっているのは有名な話だ。
GT-R Magazineがニュルの購入を決めたのは、じつは購入の予約受付が終了したあと。運良くキャンセル車両を手にすることができたのだ。故に、色やグレード、オプションなどの選択権はなし。たまたますでに編集部にあったR32VスペックII号と同じ「ソリッド系のホワイト」(QM1)だったのは幸運だった。
当時、編集部にはもう1台、ベイサイドブルーの初期型R34Vスペックがあった。そちらはNISMOのR1エンジンを搭載するなどかなり「手が入っていた」こともあり、ニュル号は基本チューニングを施すことなく、しばらくの間はオリジナルのままを貫いていた。直6エンジンを搭載した最後のスカイラインGT-Rとして、開発陣が魂を込めたその乗り味とじっくりと向き合うためでもある。GT-Rと共に絶景を求めて日本全国を旅する連載記事の「GT-R紀行」で距離を稼いだこともあって、納車から7年で17万kmを走破。その後は少しペースを落とし、今では年間1万5000km程度走行している。
初めてそのステアリングを握った際、「遅い……!?」と感じたことを思い出す。当時はフルノーマルだったこともあり、低速トルクが希薄で、4000rpm以下でのかったるさには閉口したものだ。それはニュルの特権でもあるN1エンジン(N1レース用のベース仕様)を搭載していることに起因している。そもそもレースでの使用を前提としたサイズの大きなN1タービンを標準としながら、ノーマルのブースト圧程度では美味しいところは生かせない。1速と2速のギヤ比が比較的ロングなゲトラグ社製6速マニュアルトランスミッションを搭載していることも、5速のR32などに比べると下のなさを感じさせる原因だろう。
その後、後述する二度のエンジンオーバーホールを経て、純正インジェクターの容量を考慮して最大ブーストを1.0kg/cm2程度に設定。相変わらず低速域はあまり得意ではないのだが、4000rpmから上の官能的な伸び感が逆に際立つ格好になっている。見た目は新車当時と大きく変わることなく、ホイールを何度か交換してイメージチェンジを図った程度。また、編集部所有の現スタッフカーで、唯一オールペイントを施していない個体でもある。基本、屋内保管であるということもあり、外装コンディションは30万km超にしては良好に保たれている。
精密オーバーホールで官能的なフィーリングに!
納車から5年、走行11万km強までノーマルのまま走行し続けたR34ニュル号。2007年に「マインズ」でエンジンの分解リフレッシュを施したことが大きな転機となった。基本、純正部品を使用したオーバーホールなのだが、各部バランス取りを含む高精度の組み付けにより、ニュル号の走りは驚くほど官能的なフィーリングに変貌したのだ。
もともとニュルに搭載されるN1仕様のRB26DETTも、メーカーでピストン/コンロッドなどの重量合わせが施されているはずだが、マインズで組み直したそれは、もはや次元が異なっていた。滑らかな吹け上がりと胸のすく回転感は同じエンジンとは思えないほど上質。その後、同店のコンピュータ「VX-ROM」とフロントパイプ/キャタライザー/チタンマフラーを装着したことで、気持ち良さはさらに加速した。
この時点ではまだブーストアップはしていなかったため、低回転域でのもたつきは多少残っていたものの、回すことが快感になるエンジンに生まれ変わった。そのため、積極的に取材へと駆り出されるようになったこともあり、走行距離はグングンと延びていったのである。
走行18万kmを迎えようというタイミングで、エンジン本体には手を加えず、ブーストアップチューンを実施。インジェクターや燃料ポンプはノーマルのままとしたため最大過給圧は1.0kg/cm2に留めた。中高回転域でのパンチは言うまでもなく、ブーストアップの副産物として低速域のトルク不足もやや解消。N1タービンの能力的には1.2kg/cm2程度までブーストを上げたいところではあるが、耐久性やスタッフカーという使用用途、キャラクターを考慮し、あえてマージンを残すこととした。
その後、走行24万km時に不慮のトラブルに見舞われたため、マインズにて2度目のオーバーホールを実施。この際、初めてアフターパーツの使用を決断。より耐久性を高めたいという思いもあり、ピストン/コンロッドに「東名パワード」の鍛造品を用いた。
マインズではさまざまな仕様のRB26のチューニングを手掛けているが、同店が勧めているのはボアのみ87Φにアップした2.7L仕様。低速トルクを求めるには2.8L仕様もありだが、2.7L仕様ならば純正クランクシャフトをそのまま使うことができるためコストも抑えられる。最初のオーバーホールとしてノーマル0.5mmオーバーサイズの86.5Φピストンという選択肢が多い中、同店の中山智和氏いわく「87Φのほうが明らかにトルクが出る」ということで、新品ブロックを1mmオーバーサイズにボーリングした上で、87Φピストンの使用を選択した。
1度目のオーバーホール同様、各部重量合わせのほかマインズ流の手解きを加えたエンジンは、従来よりもまたさらに官能性がアップ。「フォーン」という澄んだエキゾーストノートは、いつ乗ってもウットリとさせられる。これまでにさまざなまチューンドRB26に乗る機会があったが、こと気持ち良さという点では編集部のR34ニュル号はトップレベルにあると断言できる。
出力的には430ps程度だが、パワーだけでは語れないのがエンジンの奥深さ。施工から約8万km走行したが、次のオーバーホールでもこの味だけは絶対に手放したくない。ちなみに、チューンやリフレッシュのみならず、メンテナンス関係も基本的にはマインズに依頼。すべてを知り尽くす主治医として、R34ニュル号の体調管理と体力維持を一任している。