「直線番長」は自動車技術の結晶だった
クルマというのは、基本的に直進性が良ければ曲がりにくい。したがって、「コーナリングマシン」と「直線番長」は両立しづらい。そのため、ひと昔前のスポーツカーは、「コーナリングマシン」タイプか、「直線番長」タイプかに大別することができた。
輸入車でいえばヨーロッパ車、とくにイギリスやフランスのクルマは前者が多く、コルベットなどアメ車は「直線番長」のイメージが強かった。
直進性の良さは優秀なクルマの象徴だった
両者を比較すると、なんとなく「コーナリングマシン」の方が知的というか、偉い感じがしないでもない。だが、フェラーリ512BBの最高速が302km/hで、ランボルギーニ・カウンタックが300km/hといった数字に興奮していた世代からすると、「直線番長」も立派な勲章! 直線だけ速くても……と思うかもしれないが、直進性の良さは優秀なクルマの象徴でもある。
実際、1980年代半ばまでは、テストコースで最高速を計測しようとすると、速度が上がるにつれハンドルが軽くなり、車体が左右にふらつきはじめるクルマは珍しくなかった。
そのため真っ直ぐ走れる高剛性のボディと正確なジオメトリー、そして高性能タイヤと、高出力のエンジンを持った「直線番長」は、自動車技術の結晶でもあり、誇るべきパフォーマンスといって過言ではない。
2020年代のハイパフォーマンスカーは、スポーツカーやセダンだけではない。高級SUVも走る、曲がる、止まるの3つの性能のバランスがよく、真っ直ぐ走るのは当たり前。SUVとはいえ250km/hオーバーで走れる性能をもつクルマが10数台存在するほど! そういう意味で、尊称としての「直線番長」は今や死語になりつつある。
では逆に偉大な意味で「直線番長」といえたのはどんなクルマだっただろうか。
「直線番長」を名乗るには、まずパワーがあること。基本的に排気量は3L以上で、ターボ車であるのが望ましい。そして空力性能が優れていることも条件になる(100マイル=160km/hを越えるようになるとクルマにかかる抗力の9割は空気抵抗ともいわれる)。ボディ剛性も重要で、低いとアクセルは踏めない。
というわけで、上記の条件が揃って、真の「直線番長」といえるようなクルマが出てきたのは国産車だと1990年代からということになる。