「AE86」も先代「86」も乗ってきたオーナーはどう感じたのか?
それまで「86」に乗っていた筆者が、発売されてすぐにトヨタ「GR86」をさっそく購入し、納車されたのが2021年12月のこと。それから約9カ月、7000km乗ってみて分かったのは、あらゆる面での進化と、さらなる進化への希望だった。
進化ポイント1:トルクフルな2.4Lエンジン
なんと言っても先代86との最大の差はエンジンである。チューニング界的には排気量アップというと1割が主流。わずか1割でも排気量が上がると一気にパワーもトルクも上がるので、日産ならRB26は2.8Lへ、SR20は2.2Lに。スバルはEJ20も2.2Lに、そして三菱の4G63も2.2Lにするのが主流だ。
ところがFA20型エンジンの2.0Lから、GR86ではFA24型の2.4Lになり、20%も排気量が上がってしまった。となると、どうなるか! 圧倒的トルクの獲得である。これまでもブン回せばそこそこのエンジンだったが、FA24は5速や6速ホールドのまま高速道路での再加速もしやすい。合流時も4速で余裕をもって加速することができるのだ。
進化ポイント2:ガッチリ感マシマシのボディ
ボディは先代86の雰囲気を残しながらも圧倒的にしっかりした。先代でもしっかりしていて、よく曲がる素晴らしいボディだと思ったが、比べ物にならないくらい剛性感が高まり、ハンドリングが上質になった。
とくに先代の前期モデルはボディがバタバタした印象だった。後期はリヤの板厚が上がったこともあり、落ち着いた雰囲気になってマイナーチェンジとは思えないくらい良くなったが、それがさらに良くなっている。
パワーアップしたエンジンもしっかりと受け止めてくれるからこそ、ほぼノーマルのままながら、サーキットでビックリするほどのタイムが出てしまう。例えば佐々木雅弘選手のマイカーでは、ダウンスプリングとタイヤの変更のみで筑波サーキットを1分3秒台で走っている。これは、ちょっと前であればマツダRX-8のそこそこチューニング仕様や、2LターボのスバルWRX STI、三菱ランサーエボリューションあたりのライトチューンでもなかなか出せないくらいのタイムなのである。
進化ポイント3:ドライビングポジション
シートはすごくしなやかにドライバーを包みこむものに変わった。先代のノーマルシートとは雲泥の差である。マイカーはRZグレードで、シートの表皮がスエード的な仕上がりなのだが、これがまた、衣服と高い摩擦を発生してカラダが滑りにくく疲れにくい。
ステアリングもとても扱いやすいものになり、正直、秘蔵のMOMOやNARDIに交換しなくてもいいかなぁと思ってしまうほど。シートとステアリング、ドライバーの位置関係も大変良く、ステアリングボスで延長しなくてもステアリングが遠くない国産車には初めて乗った。
さらなる進化に期待1:追従しないクルーズコントロール
今回AT車にのみアダプティブクルーズコントロール(ACC)システムが採用。MT車はただ突進するだけのクルーズコントロールが備わる。MTは停止時にエンストするので、追従式クルーズコントロールシステムで減速させると云々という話だが、スズキのスイフトスポーツには標準装備されている。
スイフトスポーツの場合は、40km/hまで速度が落ちると自動的にACCがOFFになってしまう。低速域は自分でやってねという話だ。例えば前方でクルマが停止していると、40km/hまで減速したら、あとはそのまま突っ込んでしまうわけである。
それが無責任だといえばそうかもしれないが、高速道路で80~100km/hくらいで流れているときには、追従式クルーズコントロールシステムがあれば、どれだけラクなことか。
さらなる進化に期待2:クルマに不満はないがグレードによるさらなる差別化を!
今回のGR86は、上からRZ/SZ/RCと3グレードでの構成。先代86ではGTとGがおもなグレードで、そこにはオートエアコンの有無、スマートキーの有無、ブレーキキャリパー、ローターのサイズなど大きな差があった。
しかし今回は、おもな違いは純正ホイールがRZは18インチ、SZは17インチ、RCは16インチというくらい。ブレーキはすべて共通であるなど差が少ない。あとはシートやステアリング表皮の違いくらいとなり、正直な話、イジってしまうなら安いグレードを選び、ホイール交換して、ステアリング交換して、バケットシートを入れてしまえば、もうベースグレードがどれだかわからないレベルだ。であれば安いグレードで良かったかも……という気がしなくもない。上位グレードにはもうちょっとすご~い装備があるとか、明確な差が欲しかった……。
とはいえ、しいて不満点を挙げるならそれくらいであり、GR86というクルマには大きな不満はないのだった。