初代に連なるドライビングファンを手に入れた
なにしろ世界が今になってようやくNSXに追いつこうとしている。スーパーカーブランドはこぞってV6エンジンを新開発、ターボチャージャーと電気モーターを付加することで8気筒以上のマルチシリンダー時代より高い性能を手に入れるに至った。
フロントアクスルに2つのモーターを組み込み、エンジンとトランスミッションに組み込まれたもうひとつのモーターとともに集中制御することの先進さは、2代目デビューから遅れること3年、イタリアの雄がよく似たシステム構成のミドシップスーパーカーをようやく商品化したことからも窺える。2代目NSXの先進性を評価して、これをし過ぎるということはない。排気量の設定などアメリカ市場中心で世界的な戦略性には乏しかったが。
何を言ってももう遅い。第2世代はこれにて「お開き」だ。けれどもホンダはこの歴史的スーパーカーにせめてもの花道を用意した。惜別の高性能グレード、タイプSを追加したのだ。
世界限定350台、日本へはわずかに30台。初代への畏敬と裏腹をなすアメリカ産の和製ブランドスーパーカーに対する日本人の屈折した感情が、結果的にその台数分配に表れたのかもしれない。それはさておき……。
積極的なマイナーチェンジプロジェクトの後始末だったのだろうか。開発のメイン部隊が日本へと戻されて以降、2代目は着実にスーパーカーファン好みの性能を手に入れつつあったのだが、タイプSではそれが一気に開花したようだ。
第2世代の完成形。試乗会ではそんな説明もあったが、そう言わざるを得なくなったことがなんともやるせない。想像するにタイプSはホンダNSX(つまり初代のレガシー)としての正常進化を現代の技術で模索した結果であり、それがそのままより高みを目指すための橋頭堡(きょうとうほ)になるはずであった。完成形などではなく通過点だったはずだ。
次のホンダ製スポーツカーへの橋渡し的役割
パワー、空力、軽量化。全てにおいて性能アップが図られた。エアロダイナミクスに関しては追加モデルとは思えない前後デザインディテールの変更で一目瞭然だ。エンジン単体のみならずバッテリーやトランスミッションの性能も引き上げられた。エンジンサウンドの調教も徹底的だ。もちろん制動パワーや冷却性能も向上させている。ピレリPゼロ専用タイヤの採用もニュースだった。
ようやくナンバーのついたタイプS。一般道でスタンダードモデルと比較することもできた。果たして乗り比べてみれば、スタンダードモデルとの違いは明白である。そもそもスタンダードモデルでも初期モデルに比べると、ハンドリング性能に意のまま感が増しており、ミドシップカーらしい操る楽しみをしっかりと感じることができたものだが、タイプSではそれに輪をかけて操る喜びがあった。車体とドライバーとの一体感は明らかに増し、電気モーターとV6エンジンの統合感もはっきりと上だ。電気の使い方が効果的で、全くもって違っていると分かる。
結果、車体をより小さく感じることができ、数字以上の軽さを味わうことができた。変速は切れ味鋭く愉快痛快で、ワインディングロードをいっそう楽しく駆け抜ける。
そう、これぞNSXという走り。ハイブリッドシステムを得てなお、初代のように操る楽しさに満ちていた。最後のタイプSになってようやく2代目は初代に連なるドライビングファンを手に入れたのだと思う。
結果的にこのクルマがNSXを名乗っていて本当によかったと思った。もし名乗っていなかったら? タイプSが登場する前に、さらにあえなく打ち切られていたかもしれない。そしてNSXははるか昔の伝説のまま終わり、未来のホンダ製スポーツカーに影響を与えることなど難しかったことだろう。2代目タイプSによって初代のレガシーは次世代のスポーツカーへと、これでしっかり受け継がれることになったと思う。それだけが救いである。
2代目のフィナーレに喝采を贈ろうではないか。