最新モデルが失ったノスタルジーを濃密に感じる
話を東京からの出発点まで戻そう。いつものように首都高から東名へと向かう。地面が近く感じられ、路面の継ぎ目を正確に拾っていくが、ボディは硬く、アシは軽く、ショックは柔軟だから、身体への不快な影響はない。硬いなぁ、とは思うものの、嫌ではない。
ここまでボディが強くできているなら、それゆえアシの動かし方次第で動的キャラクターを変えることができるなら、やっぱり可変ダンパーが欲しくなるというのがクルマ運転好きの人情だが、そこは無い物ねだり。日産はその回答として「いろんなアシ仕様」を用意している。
それにしても、法定速度で巡航するようなレンジでもこのクルマにはある種のノスタルジー、それは過去に自分が乗っていたとかそういう個人的なものではなく、最新モデルが失った懐かしい気配のようなものを濃密に感じることができる。エンジンそのものの精緻なメカニカルな音、大きく空気を吸い込み吐き出す音、ターボチャージャーの音、トランスミッションの音……。ずっと性能を支える何かしらのサウンドが聞こえてくる。それがまず、楽しい。
デュアルクラッチミッションは6速、しかない。かなり洗練されていて、昔の扱いづらさはない。とはいえ今となってはもう1つ2つ上の段が欲しいところで、そこは最新モデルとしての弱点のひとつではある。多段であれば燃費も少しは良くなるだろうし、何より、巡航時の回転数が下がって結果的に長距離ドライブがもっとラクになる。エンジン回転数が小さく収まってくれていればいるほどに、身体的にはラクなのだ。
高速ドライブ中にゲリラ豪雨に見舞われた。浅溝の極太タイヤでは神経を使う。とくに前足が落ち着かない。ドキドキしながらのドライブにあって感心したのはカーボンルーフだ。意外に静か。カーボンパネルで屋根を単に軽くしたというだけでは気が済まず、吸音材がサンドされている。
当然のことながら、ニスモのドライブフィールがスタンダードと圧倒的に異なってくるのは高速域のこと。新東名の120km/h区間でもそれを感じることは辛うじてできる。とてつもない接地感に感動すること請け合い。路面にへばりつきながら進み、なお、左右へも滑るように動く。この感覚だけはスタンダードとはまるで異なる。
空気をきれいに切って走るような感覚もニスモに独特だ。こんな無骨な形をしているにも関わらず、そして普段はみょうに重々しく走るのに、速度を上げるにしたがって空気の壁を上手にすりぬけていくような感覚を味わうことができる。このエアロダイナミクスを経験するためにニスモを買ったっていいと思えるくらいに。
もうひとつ、ニスモの魅力は制動力と減速時の安定感だった。これはもう絶対制動力というべき境地で、そもそもスタンダードのGT-Rであっても、車体の全てを使ってどこでもいかようにでも停まってみせるぞ! という自信に満ちあふれているのだけれど、それに輪をかけて素晴らしい。停まれないことなどない、と思えるほどによく効いてくれる。それゆえドライブが一層ラクになる。
ラクといえば、GT-Rに限って、重さは武器というものだろう。軽々しくないから、安心して身体を委ねていられる。ある程度の重量感を伴ったままに路面を拭くようにして走るから、気持ちもいい。この感覚もまたニスモではいっそう強調されているように思う。
もう一度新車で乗ってみたい、できればスタンダードで
本当にあっけなく、京都までの450kmを走り切った。ホームワインディングにも出かけたが、相変わらずそこでは最速だ。これまで何度も走った以前のニスモを上書きした、と言うのが正しい。
GT-Rのポテンシャルを生かし無理なく速く走らせるコツは、高回転域までエンジンを回してその性能を振り絞るようにして走るのではなく、シャシーの制御を信頼しつねに少し高めのギアを選びながら走ることにあるが、それを意識しすぎてしまうと手動変速では忙しい。その点、2020年以降のモデルなら機械任せでもイケる。できるだけハンドリングに集中したいと思わせるほど、GT-Rニスモは速いのだ。
進化し続けてきたGT-R。しかし社会はそのさらなる存命を許してくれそうにない。CO2に加えて騒音規制もあって、現在のオーダー分で手いっぱい。もう一回、あるかどうか。新型Zのような手法が使えるチャンスが果たしてあるかどうか。次期型のウワサもとんと聞こえてこない。開発チームはあるというけれど……。
もう一度、愛車として新車に乗ってみたいナァ。ニスモじゃなくていい。Tスペックも要らない。スタンダードでいい。ただしボディは真っ赤で。15年も経ってそう思えること自体、奇跡のクルマだと個人的には思っている。