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ベントレー「ベンテイガ」と「アルピナXB7」は同じベクトル!? いましか味わえない純然たるアルピナテイストとは

ワインディングロードでは、ミドルクラスのスポーティ系SUVくらいのアジリティを披露し、ドライバーが積極的に楽しむことができる仕立てとなっている

玄人好みの仕立て

 日本総代理店ニコル・オートモビルズ社の長年にわたる尽力もあって、わが国でも絶大な人気を誇るBMWアルピナ。「洗練の極み」と称され、現代車の中では格別に「コニサー(通人)好み」と認知されているこのブランドは、実際にステアリングを握って走らせてみないと本質に触れられないクルマの最たる例と言えるだろう。

 今回はBMW「X7シリーズ」をベースとする1台、現状では本家BMW「X7」に「M」版の設定がなされていないことから、傍流ながらBMWファミリーにおける最上のSUVと位置づけられている「BMWアルピナXB7」に試乗。そのインプレッションをお届けしよう。

BMWアルピナ史上最大にして、おそらく最後となるSUVとは?

 先ごろ、かなりインパクトの強いニュースが全世界に配信された。1965年の創業以来、ボーフェンジーペン家のファミリービジネスとして、BMWの密接な関係を持ちつつ順当な発展を遂げてきたアルピナが、創立60年にあたる3年後をもって、その商標をBMWに譲渡するというものである。

 そのような激動の時代に誕生したBMWアルピナXB7は、これまでアルピナが足を踏み入れることのなかった、フルサイズのSUVモデル。今やICE(内燃機関)モデルからバッテリーEVに至るまで、数多くのSUV(彼ら流にいえばSAV/SAC)を世に送り出しているBMWにとっても最大にして最高級モデルである「X7」をベースとする。

 アルピナの「肝」であるエンジンは、X7の最高性能版である「M50i」と同じく4.4L V型8気筒ガソリンターボながら、M50iの530psから91psアップにあたる621ps(457Kw)/5500-6500rpmをマーク。トルクも800Nm/2000-5000rpmという、現在においても驚くべき数値を得ている。

 そのかたわらで、BMW本家のスポーツ部門「M」に対するアルピナの身上として、洗練された快適さも追求されているのは間違いのないところだろう。

 近年ではかつてのプレステージセダンに代わって、最上クラスのSUVがショーファードリヴンに供されることも多くなっている。例えば、アルピナにとっては有力な仮想ライバルであろうベントレーでは、「ベンテイガ」から独立した1モデルとして「ベンテイガEWB」なるロングホイールベース版を設定するなど、オーナーの座るべき配置を後席とみなした超高級SUVが台頭しつつある。そんな現在において、アルピナはBMW X7をいかに料理したのか、じつに興味深いところであろう。

 筆者はこれまでBMW3/4シリーズをベースとする近年のBMWアルピナ6気筒モデル「B3/D3」、「B4/D4」などに加えて、V8ツインターボを搭載する「B5」や「B7」などもテストドライブする機会に恵まれ、奇跡ともいわれるシャシーセッティング、いわゆる「アルピナマジック」の熱心な信奉者となってしまっていることも自認している。

 そして今回は、実際にXB7のステアリングを握って走らせてみたこと、そして後席からかりそめのショーファードリヴンを体感したことによって、アルピナマジックが大型SUVでも健在なこと、あるいは、このモデルに込められたアルピナの熱意を、ほんの一部ながらかいま見ることができたのである。

ショーファードリヴンを意識しつつも、グランドツアラーとしての最上級に挑む

 2021年春、東京都内で行われたプレス発表会以来の対面となるBMWアルピナXB7は、とくに外界で目の当たりにすると、雄大と言いたくなるサイズ感。

 メーカー公表値によるとホイールベースは3105mmで、全長×全幅×全高は5165mm×2000mm×1830mm。そして車両重量は2510kgに及び、まさしく「フラッグシップ」という言葉がふさわしい堂々たる体躯に驚かされる。

 この日の試乗会は、湘南の鎌倉・逗子周辺が舞台。市街地および、近郊のワインディングロードがコースとなった。

 まずはV8ツインターボエンジンに火を入れ、アクセルペダルをちょっと踏むと、想像していた以上にグワッと車体が動き出す。またブレーキもつま先で軽く「触った」つもりが、意外なくらいに強く制動が効いてくる。したがって、鎌倉周辺の古くて狭い住宅街ではサイズ感も相まって、少々気を使いつつの走行となった。

 ところがクルマにおおむね慣れたころに、広めの道に出て前方が開けたことを確認しながら少しだけスロットルを踏み込んでみると、印象は一変。スピードの上昇にしたがって、すべてがスムーズに作動してくれる。

 今回は高速道路のドライブには至らなかったので、621psの最高出力と800Nmの最大トルクは片鱗さえも味わうことはできなかったのだが、それでもアルピナはアルピナ。不用意にスロットルを開けると、恐怖心さえ抱かせるような加速感を披露する。

 また、プレステージサルーンのB7と同じく絶対的な音量は静かなものながら、脳髄がとろけてしまいそうになるくらいに「スウィート」なV8サウンドを、まるで控えめなスキャットのように聴かせるエンジンは、やはりアルピナの出自がチューナーであることを感じさせるのだ。

 いっぽうワインディングロードでは、さすがにコンパクトSUV並みとは言わないものの、ミドルクラスのスポーティ系SUVくらいのアジリティを披露し、ドライバーが積極的に楽しむことができる仕立てとなっている。

 ただし乗り心地については、オプションの23インチという超大径ホイール/タイヤが装着されているせいか、BMW X7には設定のないアルピナ独自のドライブモード「COMFORT PLUS」を選んでいる時でも若干のコツコツ感はある。でもそれは「例えばロールス・ロイス カリナンあたりと比べれば」、という程度の話。

 リヤに設けられたキャプテンシートの住人にとっても、超高級車にふさわしい立ち振る舞いを保ちつつ、同時に極上のグランドツアラーであろうとする明確な意思表示の表れと受け取るべきであろう。

 そして筆者が最も感銘を受けたのは、「アルピナマジック」に代表されるBMWアルピナ独自の世界観が、ドライバーに対しても、あるいは後席の住人に対しても矜持のごとく大切に護られている。そんな姿勢や哲学が垣間見られることであった。

 すでに最後のBMWアルピナXB7となるフェイスリフト版が本国では発表されており、まもなく日本でも切り替わるそうだが、そちらはおそらく広報車として配備される可能性は低いとのこと。だからこそ、この素晴らしきアルピナマジックの最終進化をかみしめるような、短くとも豊穣なテストドライブとなったのである。

●BMW ALPINA XB7
ビー・エム・ダブリュー アルピナXB7
・車両価格(消費税込):2528万円
・全長:5165mm
・全幅:2000mm
・全高:1830mm
・ホイールベース:3105mm
・車両重量:2580kg
・エンジン形式:V型8気筒ビターボ
・排気量:4395cc
・エンジン配置:フロント縦置き
・駆動方式:4輪駆動
・変速機:8速AT(アルピナ・スウィッチ・トロニック付き8速スポーツ・オートマチック)
・最高出力:621ps/5500-6500rpm
・最大トルク:800Nm/2000-5000rpm
・0-100km/h:4.2秒
・巡航最高速度:290km/h
・公称燃費(WLTC):km/L
・ラゲッジ容量:750-2120L
・燃料タンク容量:83L
・タイヤ:(前)285/35ZR23、(後)325/30ZR23
・ホイール:(前)9.5Jx23、(後)11Jx23

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