カウンタックのライバルとは
2022年も8月中旬に北米カリフォルニア州モントレー半島一円で開催された「モントレー・カーウィーク」における最大規模のオークション、RMサザビーズ「Monterey」では素晴らしいクラシックカー/コレクターズカーたちが続々と出品・落札された。とくに今回はフェラーリの豊作ぶりが目立ったように見えたが、そんな中きわめて希少、そして魅力的なインテリアを持つ「512BBi」が出品されたので紹介しよう。
スーパーカーブーム「西の横綱」の最終進化版とは?
極東の我が国で、かの「スーパーカーブーム」が湧き起こったのとほぼ時を同じくする1976年にデビューを果たしたフェラーリ「512BB」は、同時代のランボルギーニ「カウンタックLP400S」とともに、スーパーカー界の東西横綱の一角として君臨。
そして1981年には、BBとしての最終進化版というべき「512BBi」が登場したことによって、512BBとともに歩み始めたフェラーリのマイルド&コンフォータブル路線は、さらに押し進められることになる。
4943ccのボクサー12ユニットには4基のトリプルチョーク・ウェーバー気化器に代わって、新たにボッシュKジェトロニック型インジェクションが組み合わされる。しかし、360psを標榜していた512BBからは20ps、さらに365GT4/BB時代からはじつに40psの低下となる340psまでディチューンを余儀なくされた。
これによってメーカー公表のマキシマムスピードも、希望的観測とカウンタックへの対抗意識が込められていた365/512BBの「302km/h」から、かなり現実的な「280km/h以上」という数値に初めて落ち着くことになった。
ちなみにアメリカでは、排ガス規制のためにヨーロッパ向けモデルがそのまま並行のかたちで輸入されたが、少数の輸入枠を認める合衆国連邦政府の公式プログラムにより、アメリカでの購入者の輸入手続きは緩和されることになった。
512BBiは1984年に後継車「テスタロッサ」に取って代わられるまで、わずか1007台(ほかにも諸説あり)しか製造されなかったものの、1970年代初頭のスポーツカー耐久レースで活躍した「512S」スポーツプロトタイプから輝かしいネーミングを継承した公道用スーパーカーとして、今なお多くの愛好家に愛されているのはご存じのとおりである。
わずか27台のみ!ゼニア内装の512BBi
今回RMサザビーズ「Monterey」オークションに出品されたフェラーリ512BBiは、シャシーナンバー「#44993」の個体。
この時期のフェラーリでは、「400GT/AT」および512BB系を対象として、イタリアのファッションハウス「エルメネジルド・ゼニア」による特別なインテリアデザインをオプションとして設定。いかにもゼニアらしいウール生地のシートとドアインサート、それを引き立てる同系色のカーペットという、ユニークなフィニッシュが施された約27台のうちの1台である。
この個体では、ホワイトのボディペイントにクリーム色のレザーのシートを組み合わせ、エルメネジルド・ゼニアのインサートとカーペットは赤系という見事なカラーコンビネーションで仕上げられている。
また、純正エアコンとイコライザーを備えた「パイオニア」の特別なステレオシステムが搭載された。新車として納車ののち、1996年までファーストオーナーの家族が所有していたとされるが、そののち譲渡されたミネソタ州の在住の2代目オーナーは、20年間にわたって所有、丁寧なメンテナンスを施しつつこのクルマを大切に乗り続けた。
2016年に3人目のオーナーに売却された512BBiは、オリジナルのカラーコンビネーションのまま化粧直しを施したほか、オリジナルのクロモドラ社製ホイールも改修。この時期のフェラーリが、F1GP活動との兼ね合いもあって採用したとも言われるメートル法のユニークなタイヤ「ミシュランTRX」も、現在もなお入手できる新品に取り換えられた。
その後、この#44993は2017年初頭に開催された「キャヴァリーノ・クラシック(Cavallino Classic)」に展示されている。
オークション出品時に添付されるサービスファイル内の請求書にも反映されているように、この512BBiについては2018年に、ノースカロライナ州グリーンズボロの尊敬すべきフェラーリスペシャリスト「フォーリンカーズ・イタリア(Foreign Cars Italia)」社に約1万2000ドルの費用を投じ、エンジンを降ろしたオーバーホールやベルト類の交換を含む、本格的なメカニカルサービスを受けている。
そして2019年1月に、今回の出品者である現オーナーによって入手されたのち、2020年と2021年に「フェラーリ・オブ・ラスベガス(Ferrari of Las Vegas)」によって、クラッチや電装系などのメンテナンスも行われている。
オークションカタログ作成時の走行距離は3万3600km(約20880マイル)未満と、年式を思えばかなりのローマイレージ。純正ツールキットとオーナーズマニュアル、正規ディーラー発行のサービスブックレットを、これも純正のポーチとともに添付。また、2018年から2021年までのサービス記録簿も完備したこの512BBiは、ベルリネッタ・ボクサー最終型のとくに魅力的な一例と言えるだろう。
さらに、豪華なゼニア製インテリアを与えられたBBが国際マーケットに売りにされる事例は、極めて少ないというのが実情である。
BBにしては高額も、カウンタックと比べたら……
そんな背景も加味してのことと思われるが、RMサザビーズ北米本社ではこの純白の512BBiに対し、昨今落ち着きを見せているBB市場を思えば、いささか強気とも思える27万5000ドル~35万ドルのエスティメート(推定落札価格)を設定した。
実際の競売では、エスティメート下限にあと一歩届かない26万8800ドル、つまり邦貨換算約3840万円での落札となったが、これは現況のBBiとしてはかなり高額であることも事実。アメリカでは512BBiが希少であることもさることながら、やはりシックなゼニア・インテリアの「破壊力」が大きかったのではと考えられるのである。
しかし、新車当時のライバルであったランボルギーニ・カウンタックとは、大きな差が開いてしまっていることも付け加えておこう。