F1とLMPを足して2で割ったマシン
快晴のピットレーンに引っ張り出されたヴァルキリーAMR Pro。タイヤを4隅に配したジェット戦闘機のようだ。エンジン始動方法が面白い。いわゆる「押しがけ」なのだが、人が押すわけではない。電動モーターが助走を担う。数mほど電動走行したのちにV12エンジンに火が入り、ドライバーはピットレーン走行のスイッチをオフにして内燃機関をフルに回す、という仕掛け。
パワースペックはこの日、初走行ということもあって、800psに制限されていた。オーナーの技量に合わせて、800psから900ps、そして1000psへとステップアップ可能だ。
V12に火が入った瞬間、ピットレーンに地鳴りが起こる。強烈なサウンドをたなびかせてコースイン。遠くで雷鳴のようにサウンドが響く。あっという間にホームストレッチへ。かなり速度は抑えられているが、サウンドは高らかに響き、その音は集まったクルマ好きの表情を全て笑顔に変える力があった。
どんどんとペースが上がっていく。サーキットに響くサウンドがさらに甲高く聞こえてきた。ストレートへ。速い、速い。サウンドトーンも明らかに違う。
この日のヴァルキリーAMR Proはオーバー310km/hを記録。なんとも凄まじい速さではないか。
これまでLMPマシンを含む何台ものレーシングカーを「駆った」経験があり、ル・マン24時間レースへの出場も豊富なプロドライバーの加藤寛規氏いわく、「こんな経験は初めて。ポテンシャルが高すぎるのに、とても運転しやすい」。世界のウルトラリッチなジェントルマンドライバーたちが安心してプロフェッショナルドライバーの世界を楽しめるエンジニアリングとは、なるほどそういうものなのだろう。
この日、試乗したプロドライバーやオーナーの声を総合すれば、「F1とLMPを足して2で割ったマシン」らしい。事実、バーレーンGPの余興で走ったプロトタイプは、なんとF1マシンの予選タイムから数秒落ちで周回したという。