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今さら聞けない「スプリング」の基礎知識を2分で解説! 「バネレート」だけでは語れない深遠なるバネの世界とは

前後でスプリングの特性を変えるチューナーも珍しくない

バネを変えるだけでも車高調の乗り味は激変する

 クルマの車高調整式サスペンション、通称「車高調」に使われているバネは「直巻(ちょくまき)」と呼ばれるもので、太さ、長さ、バネレートなど同一の規格に沿って作られている。しかし、それらの数値以外にもそれぞれの特性があるので、違いを見極めてチョイスしたい。

スプリングの硬さを表す「バネレート」

 直巻スプリングはIDと呼ばれる太さ(内径)、インチ単位(25mmごと)で作られる長さ(自由長)、そしてスプリングの硬さを表すバネレートという、3つの数値の組み合わせでラインアップされている。よく「何キロ」と言われているのはバネレートのことで、1mm縮むのに何kgの力が必要になるのか、という数値だ。

 例えばバネレートが10kg/mmのスプリングに50kgの力がかかれば5mm縮むし、100kgの力がかかれば10mm縮むことになる。

 車高調ではこのスプリングを変えることでセッティング変更が可能だ。バネレートが低ければ大きく沈むので、荷重移動を活かして姿勢変化しやすくなる。逆にバネレートが高ければ、同じようにブレーキをしても沈む量が少ないので、クルマの姿勢は乱れにくく安定しやすくなる。

伸縮のしかたを示す「固有振動数」も重要!

 だが、バネの性能はそれだけではない。じつはそれに匹敵するくらい大切なのが「固有振動数」だ。初めて目にする人も多いかもしれないが、簡単に言うと、沈んでから反発するまでの時間のこと。固有振動数を数式でいうと「1/2π√k/m」(k:バネ定数、m:質量)で求められる数字になり、1秒間あたりの振動回数を表してHz(ヘルツ)の単位であらわされる。つまりは、固有振動数が多いバネだと縮めたらすぐに伸びようとする。逆に固有振動数が少ないバネだと縮んでから伸びようとするまでに時間がかかるというわけだ。

 スプリングの固有振動数が少ないとゆったりする。観光バスの乗り心地のようにじわっと沈んで、じわっと戻ってくるようなイメージ。乗り心地としては良く感じやすい。

 固有振動数が多いとすぐに反発するので乗り心地はせわしなくなるが、ハンドルを切って素早くクルマが反応するスポーツカー的なクルマでは、そのレスポンスの良さが乗りやすく感じることが多いのだ。

 この固有振動数はスプリングの長さと、設計によって変わる。

 簡単なのは長さだ。同じメーカー、同じバネレートで、長いスプリングと短いスプリングを比べた場合、長いものは固有振動数が少なく、短いものは固有振動数が多い。

 なので、乗り心地をもっとソフトにしたいなら長いスプリングをチョイス。もっとクイックにクルマを動かしたいなら短いスプリングをチョイスする、といったセッティングができるのだ。

メーカーごとの特性を活かすとチューニングがさらに進化する

 この固有振動数はスプリングメーカーによっても異なり、同じ長さで同じバネレートでも、固有振動数が多めのメーカーもあれば少なめのメーカーもある。

 近年では「ハルスプリング(HALsprings)」のように、低反発/中反発/高反発と異なるモデルをラインアップしているメーカーもある。

 ほかにも、バネレートの特性にこだわるメーカーもある。アメリカ製の「ハイパコ(HYPERCO)」はそのレートの安定性にこだわっている。

 通常バネは縮み始めはややバネレートが低く、沈むごとにバネレートが高くなっていきやすい。あえて、沈み始めは柔らかい乗り心地を確保して、奥に沈むほど硬くなる特性を目指すこともある。

 しかし、HYPERCOではレートが変化していくとレースの世界ではセッティングが決めにくいという考えから、沈み始めからたくさん縮んだところまで、ほぼ同一レートになるようにこだわって設計している。

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 このようにカタログ数値だけ見ると同じようでも、スプリングそれぞれ設計思想が異なるので、どのメーカーが良いとか悪いという問題でもない。そういった特性を活かすべく、あえて前後で異なるメーカーのバネを使うチューナーも少なくない。

 車高調の乗り味を変えるのに、同じレート、同じ長さでスプリングメーカーだけを変えてみるという楽しみ方もある。さらにその先には長さも選べる。奥深きバネの世界はバネレートだけではない、壮大な深さがあるのだ。

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