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「ニスモ」のテスト車両だったジャガー「XJR−15」とは? 1億8000万円オーバーで落札された公道を走るレーシングカー

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: Courtesy of RM Sotheby's

27台のなかの1台

 今回の「Monterey」オークションに出品された、シャシーナンバー#018は、ロードバージョンとして製作された27台のうちの1台とされる。そのため、ル・マン用の6速ギアボックスではなく、5速トランスアクスルが搭載されている。

 この個体で特筆すべきは、じつに興味深い来歴である。日本の「ニスモ・レーシング」のエンジニアが、空力研究やハイブリッド・エネルギー回生システムのテストに使用していた「ジャパンスタディ・カー」と呼ばれる車両なのだ。

 その役割を終えたのち、2015年にオーストラリアのXJR-15のエキスパートである「Bespoke Motors」によってオリジナルに修復され、その後の走行距離は1000マイルにも満たないものの、継続的にメンテナンスされているという。

 このクルマには、ピレリP-Zeroの新品タイヤを巻いた6本スポークの17インチO.Z.レーシング・アロイ・ホイールが装着されているほか、グレー本革レザーのレーシングシートを採用したスパルタンなインテリアには、3桁のスピードで走行する際に会話するための有線ヘッドセットも装備されている。

 カーボンファイバーとケブラーで構成されるブラック&シルバーのむき出しのチューブは、メータークラスターや伊ナルディ社製のレーシングステアリング、ロッカーパネルに取り付けられたシフトレバーも相まって、キャビン全体に独特の存在感を放っている。

 今回のオークション出品にあたって添付されるドキュメントには、過去4年間に行われた重要な整備記録が記された請求書も含まれている。その中には1万5000ドルを超える費用をかけて、工場出荷時のダークブルーに再塗装し、外装全体に保護用のクリアフィルムを貼ったことも記されている。

 そのほかフルード類の交換、エアコンシステムのリチャージ、カーボンクラッチのオーバーホール、ベルト、ガスケット、スパークプラグ、タイヤの交換など、2万ドル以上をかけて整備が施されたことも克明に記録されているという。

 さらに、「ジャパンスタディ・プログラム」で使用したスペアパーツとして、ニスモ開発のリヤボディパネルと、その製作に使用した金型、テスト時に装着したホイール/タイヤ、ザイテック製ECUも一緒に引き渡されるという。また、身長180cmのドライバーでも快適に座れるよう、同サイズのシートがもう1セット付属しているとのことである。

ジャパンスタディ・カーは、1億8000万円超え

 もとより生産台数の少ないうえに、大方はマニア同士で秘密裏に売買される事例の多いはずのXJR-15が、こうしてマーケットに売りに出される機会は非常に限られることから、目の肥えたジャガーのコレクターはもちろん、スーパーカー愛好家にとっても今回のオークション出品は、かなり注目すべきものだったようだ。

 このジャガーXJR-15に、RMサザビーズ北米本社は120万ドル~140万ドルというエスティメート(推定落札価格)を設定した。じつは昨2021年夏のRMサザビーズ「Monterey」でも、日本経由のヒストリーを持つXJR-15が出品され、このときのエスティメートは175万ドル~210万ドルに設定されたのに対して、190万2500ドルの落札となっていた。

 それに対して今回は127万ドル、日本円に換算すれば約1億8155万円でハンマーが落とされることになった。今回出品されたシャシーナンバー#018も、ヒストリーおよび現状のコンディションともに申し分ないものとされていることから、この落札価格は比較的リーズナブル。買い手にとっては満足できるものと言えるだろう。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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