「スポーツVIP」へと振り切った「クラウン」
やるからにはとことんやる、そして振り切る──それがカスタマイズというものならば、今回紹介するトヨタ「クラウン」(210系)は、この本質を極めたキング・オブ・カスタムカーだ。
走り屋からゼロヨン、そしてVIPへ
クルマのカスタマイズにはさまざまなジャンルがある。その中でも1990年頃から注目されはじめた「VIPカー」と呼ばれるセダンベースのカスタム文化は、時代とともに大きく成長し、よりカッコ良く、より激しいスタイルへと変貌を遂げていった。
近年では高級路線のVIPカーをベースにスポーティなカスタマイズを施した「スポーツVIP」と呼ばれるジャンルが誕生した。その特徴はベタベタの車高にスポーティに魅せるダクトやオーバーフェンダー、ディフューザーといったエアロパーツを装着させ、レーシーさをもを追求する点にある。
一時流行ったラグジュアリー路線のカスタムは、純正フォルムを活かす方向のドレスアップが主流だったが、スポーツVIPではその発想を大きく変え、より過激にアグレッシブで攻撃的──レーシングカーに近いスタイルとなる。
スポーツVIPで大事なのは「縛りに囚われない自由な想像力で作ること」である。あらためて今回紹介する210クラウンを見ると、まったくその通りであることが分かるだろう。
自分だけのオリジナルスタイル。それでいて、クラウンらしさが残されているカスタムは注目に値するだろう。
このスポーツVIPの良いお手本というべきマシンを手がけたのは、カスタムVIP界の有名人である服部恭士さんだ。彼は18歳で普通免許を取得後にAE86を購入し峠を攻めまくっていた走り屋だった。
その後、ブームとなったゼロヨンにも参加。みんながハイパワーな2ドアスポーツを選ぶなかで、あえて異色の4ドアセダンのマークII(GX81系)を選択。エンジンをカリカリにチューニングし、1.5J仕様+船舶タービンを組み合わせたゼロヨン仕様車として製作。思えばここからセダン人生がはじまり、地元愛知県の某有名ストリートゼロヨン会場では、無敵のFRセダンとしても有名になるほどだったという。
ゼロヨン卒業後は、落ち着こうと思ってクラウンを購入。しかし、純正のままでは物足りなさを感じカスタム熱が再発。当時流行っていたカーオーディオにハマり、ハイパワーアンプ連装に巨大なスピーカー搭載の音圧重視のカスタムマシンを仕上げていたそうだ。
公認をとって自走できるカスタム
現在所有している210クラウンは、これまで様々なカスタムを経験してきたなかで、自分が一番良いと思った物だけを詰め込んだ集大成の1台とのこと。
基本的に外装パーツはすべてワンオフで製作し、強烈なインパクトを放っているオーバーフェンダーはロケットバニー86用ベースで大幅な加工を加えた。
210クラウンをよりスポーティに魅せる工夫として、エッジと絞り込みを強調させ、理想のオーバーフェンダーの形を追求するためにパテによって成形。そのままでは重たすぎて装着できないので、これをマスターとして型を作り、FRPで作り直したという。この情熱はまさに、ボディ職人系プライベーターの意地といえるだろう。
ほかにも外装系では数多くの注目箇所があり、とりわけアグレッシブな表情を作り出すフロントバンパー、ライトジャケット、そして、大胆に開いたダクトの処理等、スポーツVIP仕様を目指すオーナーにとっては注目すべき点が盛りだくさんだ。
また、服部恭士さんは走りにこだわるチューニング好きのVIPカー乗りなので、普通に自走できることにもこだわっている。
そこで、サススペンションは便利なエアサスをあえて使わずに、フルアーム交換+車高調キットを組み合わせた自走仕様としている。普通に走ることを考えて極端な鬼キャンにはせずに、キャンバー角もフロント5度、リア4度とし、高速道路も含めてまともに走れる限界ギリギリのセッティングを出しているそうだ。
エンジンについては、ハイブリット車なのでノーマルのまま。ただ、ユニークな電装チューンを施して、コンピュータのデータ書き換えを行っている。主にモーター駆動とエンジン駆動の割合を調整したという。
ノーマルではモーター駆動6割/エンジン駆動4割の配分になっているが、これをまったく逆転させてチューニング。エンジン7割/モーター3割にリセッティングを施している。また、他にも電気効率の良い配線処理を施して調整。この作業によってスタートダッシュがとてつもなく速くなったそうだ。
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ひと目見た時の印象やカスタム内容も含めて、文字どおりスポーツVIPカーを体現した服部さんの210クラウン。そのカスタム内容は外装、内装、エンジン、オーディオ等、多岐にわたっていてすべてを紹介することはできない。
しかも、フル公認仕様とのこと。しっかり構造変更をして公認を取得しているからこそ、公道での走りにもこだわることができるのだ。服部さんの210クラウンからは、学ぶべき点がとても多い。