使い勝手をさらに向上させた新型シエンタのマルチな実力とは
2代目となる先代トヨタ・シエンタはミニバンブームの最中、2015年に登場した。デビュー当初、派手なエクステリアデザイン、原色を用いた一部仕様のカラーリングに筆者は「都会を泳ぐ熱帯魚」と称したものだ。しかも、インテリアはギトギトした質感、助手席エリア中心の収納の配置、ちょっと不自然なドライビングポジションなどから、ライバルのフリードに勝てない部分も多かったと記憶している。
しかし、2018年9月のマイナーチェンジでその様相は大きく変わる。派手なエクステリアカラーを廃し、ついに2列シート仕様のFUNBASEを投入する(2019年10月にはアウトドア派待望のグランパーグレードを追加)。それが功を奏してか、2019年8〜9月には乗用車販売台数ランキングにおいて、並みいるライバルを退け、堂々の1位を2カ月連続で獲得。5ナンバーサイズの3列シートミニバン、2列シートの大容量ワゴンとして、7年におよぶロングセラー車となったのである。
新型はアウトドアで活用できるユーティリティ機能が満載
そんなシエンタの3代目となる新型は、本稿執筆時点で試乗はまだ叶っていないが、空前のキャンプブームのなか、実用車としてアウトドアから車中泊御用達カーとして大ヒットすることは間違いないと思える。
初代から受け継がれた5ナンバーサイズのコンパクトさによる運転のしやすさとミニバンの利便性の融合をさらに深化させ、1.5Lのダイナミックフォースガソリン車(WLTCモード最高18.4km/L、5人乗り)と1.5Lエンジン+モーターのシリーズ・パラレル式ハイブリッド(WLTCモード最高28.8km/L、5人乗り)を用意。3列シート7人乗りのミニバンスタイルはもちろん、2代目の途中からFUNBASEとして加わった2列シート5人乗り+広大なラゲッジスペースを備えた仕様も、FUNBASEの名ではなく通常のラインアップとして用意されている。
クロスオーバー感のあるスタイリングがアウトドアで映える
大ヒット間違いなしと感じるひとつ目の理由は、先代よりシンプルでアクのないツール感あるエクステリアデザインだ。しかも、キャビンとラゲッジ部分をセパレートしたような、ミニバン+ワゴン感覚のスタイリングが今風であり、さらにボディサイド下のプロテクター、前後ホイールアーチの樹脂プロテクターあたりのデザインは、シトロエンのベルランゴを思わせるクロスオーバー感を強調している。クラウンでさえクロスオーバーになる時代だから、シエンタもまた時流に乗ったクロスオーバースタイルで仕上げてきたのかもしれない……。
また、インテリアも圧倒的に上質で上品な設えとなっている。インパネ上部が布張りであったり、選べるシート地の選択もリビング感満点。その空間はシートに座っただけで寛げるイメージだ。さらにポケットとスマホの充電に不可欠なUSBソケットの位置関係も絶妙で、スマホ世代に大きくアピールするポイントとなりうるだろう。
もちろん先代から引き継がれたスライドドアの開口部高は先代比+60mmの1200mmとなっており、この大開口のスライドドア地上高(乗り込み高さ)は330mm(実車の計測ではもう少し高かったが)の低さで、このステップ高の低さは子どもだけでなく足腰の弱った高齢者にもありがたい。相変わらず、高齢者のいる家族にもうってつけというワケだ。
2列シート仕様はフルフラットな車中泊空間も演出できる
前述した新型シエンタのツール感あふれるエクステリアデザインも伊達ではない。ラゲッジスペースのフロア高は505mmという極めて低い位置にあり、7人乗りの場合、開口部の高さで+15mm、ラゲッジスペースの荷室高で+20mmアップ。また5人乗りは後席のチルトダウン構造の見直しによって、格納時のシート背面高を下げたことで、荷室高は+50mmも高くなっているのだ。
そしてフラットで大容量のラゲッジスペースは、大きな荷物、重い荷物が増えるアウトドアやキャンプなどにもうってつけとなる。とくに2列シート仕様は車中泊対応もバッチリで、なにしろ2列目シートの構造がが3列シート仕様のそれとは異なるチルトダウン方式を採用しており、低くフラットに格納するとラゲッジルームから続く平らなフロアが出現。最大荷室長は2045mmもあり(計測方法は1列目席背後が起点)、実際に身長172cmの筆者ならフロア部分に真っすぐに横になれるスペースが確保されているのである。車内をお座敷化するにしても、室内高のアップにより、さらに解放感あるリビングスペースになりうるのだ。
アウトドア派や愛犬家にも優しいのだが……
そしてライバルにない装備として挙げられるのが天井サーキュレーターだ。ノア&ヴォクシーのように後席用エアコン吹き出し口を持たないシエンタだが、これなら2/3列シート仕様を問わず、後席の乗員も空調的に快適に乗車していられるはずである。
そして何と言ってもライバルにはない、AC100V/1500WコンセントがHV車に4万4000円(税込)のオプションとして用意されているのもポイントが高い。この装備があることで車内外で1500Wまでの家電品が使えるため、アウトドアや車中泊で絶大なる威力と利便性を発揮。非常時にはガソリンが満タンであれば、消費電力400Wでは約5.5日分の電力が供給できるというのだから、心強いではないか。
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テレビCMには、新型シエンタの”ワンバサダー”であるミックス犬の「ちょうじゅろう君」も登場し、家族の相棒としてのシエンタをアピールしているぐらいだから、単なる実用車の域を超えた、アウトドア派、車中泊派だけでなく、愛犬家(派)にもピッタリな、より多くのユーザー層に訴えるコンパクトカーに仕上がっている。
ただし、愛犬家が新型シエンタを手に入れる場合、クルマのサブスク、KINTOは利用できない。テレビCMやカタログに犬が大々的に登場し、ペットを含む家族の相棒がシエンタ……とアピールしているにもかかわらず、KINTOには「ごめんなさい、ペットの皆様は乗れません」との注意書き(つまりペット乗車禁止)があるのだ。愛犬と新型シエンタライフを楽しみたいなら、一般的な買い方一択となる。