シートが動くことで身体は安定する?
2022年10月5日(水)~7日(金)、東京ビッグサイト東展示ホールにて第49回国際福祉機器展H.C.R.2022のリアル展が開催された。福祉や介護の最新機器を取り扱う展示会で、毎回自動車メーカーや関連機器を扱う自動車取り付け業者などが出展している。今回のトヨタブースはウェルキャブシリーズの車両を並べるのではなく、「トヨタ技術選挙」と題して、3つの新しい技術の展示を行っていた。
しかし、その会場で配られたリーフレットにも載っていない展示物もあった。それが「キネティックシート」である。少しわかりにくいが、展示用のシートの上に、少し厚みのあるシートカバーが載せられているだけのように見える。
これまでクルマのシートといえば、例えるならバケットシートのように、しっかりと身体をホールドすることで姿勢を保つという考え方があり、深い座面やサイドサポートなどを備えていく方向にあった。しかし、キネティックシートは“人間本来が持っている姿勢を保とうとする仕組み”を活かしたものという。
そしてここに登場したシートは、人の骨格の動きに合わせて座面と背もたれが、骨盤と背骨の運動軸周りにそれぞれ動くことで、身体への負担を軽減できるという。このふたつの軸を支えることで、路面の凸凹による振動や、旋回時の横Gに対して、腰から背中にかけての動きで頭が安定するように持っていくというモノ。頭部の揺れはもちろん、筋肉への負担軽減効果もあるという。
脊椎損傷などで下半身不随の障がいを持つと、体幹がないために身体をしっかり支持できないということがある。本サイトで何度も紹介している、障がいのある方に運転する楽しさを味わっていただくHDRS(ハンド・ドライブ・レーシング・スクール)でも、サーキットというクルマをぶん回せる安全な場所で、身体の姿勢をいかに保持して、ステアリングおよびアクセル&ブレーキ操作をきちんと行うかということをレクチャーしているが、身体を支えることの重要性は一部の障がい者にとっては非常に重要なこととなる。
キネティックシートはそういった層にも、そして健常者にも有効なシートのようだ。解説図を見ているとシート自体がすごく大きく動くかのようにみえるものの、実際のところそれほどでもない、とのこと。シートベルトが支えている乗員の胸部という点で言えば、ほぼ動いていないのだそうだ。
まだまだ開発中ということで、展示されていた実物はスチール素材で重量が20kg近くあるという。ノーマルのシート自体が20kg前後と考えると、キネティックシートと合わせて40kg近い重量となってしまう。そこでより軽量な素材への置換であったり、内容の精査なども含めさらに開発していくということだ。近い将来、これを実際に体験する機会がやってくることを期待したい。