タイムカプセルのごときXJ220とは?
この最終型XJ220はジャガー本社に売れ残ってしまい、長らく密閉された保管庫に保管されたことから、結果として1990年代ジャガーのスーパーカーテクノロジーを物語るタイムカプセル的存在となった。それでもこのXJ220は、6カ月ごとにジャガーのエンジニアによって完全な整備と走行が行われ、長年の保管の間に数百マイルのマイレージが蓄積されたという。
1999年末に「RMクラシックカー」がアメリカの顧客に新車として販売し、プロの手によってアメリカの排ガス規制に適合するように改造されたXJ220は、こののち18年を初代オーナーのもとで過ごすことになった。
2017年に史上2人目となる現オーナーが購入したのち、このクルマは「XJ220マイスター」として知られる英国ニューカッスルの「ドン・ロウ・レーシング」に送られ、フルサービスが施された。
ロウ社のスペシャリストが行った作業には、エンジンとトランスミッションを取り外してクラッチ、ベルト、フルードを交換することも含まれていた。また燃料タンクはインナーフォームパック、フルガスケットパック、オーバーブレードステンレススチール燃料ホースで構成されるレーシングセルに交換されたほか、ブレーキやエアコン、冷却システムも1万8000ドル近くも投じてアップグレードされている。
さらに排気系は、ステンレス製の大口径エキゾーストシステム、および直管の触媒バイパスパイプを装着。さらに身長180cmのドライバーでも快適に乗れるよう、足元の改造も完了した。
2021年には、再びエンジンを取り外して24カ月点検を行ったほか、外装にクリアプロテクションフィルムを貼り、運転席のシートボルスターを張り替えている。
「モンツァ・レッド」のボディに「サンド(砂色)」本革レザーという工場出荷時の配色で仕上げられたこの個体は、ジャガー本社が発売後にも保有し、のちに新車として販売した数台のXJ220のうちの1台であるというヒストリーも含めて良く知られている個体とのこと。またコンディションについても、XJ220のオリジナル状態を熟知したスペシャリストたちの手によって、正しく維持されているという。
「ハイパーカー一期生」としてはリーズナブル
今回の「Monterey」オークション出品に際しては、マニュアルと記録簿、純正ツールキットにラグナットツール、スペアバルブ、オリジナルエグゾースト、ポリッシュリムとゴールドホイールセンターが付いた当時のBBSレーシングホイールのセカンドセット、新しいタイヤセット、工場から届けられたオリジナルのタイヤセット、密封されたオリジナルのファーストエイドキット(救急箱)も添えて納車されることになっていた。
そして、RMサザビーズ北米本社および現オーナーは協議の上で、ハイリスク&ハイリターンの「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」とした。
2021年出品されたXJ220は45万ドル~55万ドルのエスティメート(推定落札価格)に対して47万2500ドルで落札されたことから、2022年も同等かそれに近い額での落札を期待していたと思われるのだが、今回フタを開けてみれば2021年を大きく上回る56万6000ドル。日本円に換算すれば、約8090万円という大商いとなったのだ。
それでもマクラーレンF1はもちろん、フェラーリF40やブガッティEB110、さらには身内のライバルで、今回も同時出品されたジャガーXJR-15など、当時ライバルと目された「ハイパーカー一期生」たちが軒並み億単位で取り引きされていることと比べてしまえば、依然としてリーズナブルともいえる。
現状においても、ジャガーのクラブミーティングやスーパーカーの展示イベントなどで高い人気を得られるほか、今後は国際的なコンクール・デレガンスのエントリー対象になることも見込まれることもあって、国際マーケットにおけるジャガーXJ220には、まだまだポテンシャルを感じてしまうのである。