285台のみのレアモデル「カイエンSトランスシベリア」
ところがカイエンの進化は、ここで止まらなかった。さらに翌年、2008年にポルシェは昨年とまったく同じカイエンSをそのまま、より頑強なオフロードタイヤや足まわりや細かな制御といったセッティング以外、新車両を製作することも新シャシーに替えることもせず、19台をトランスシベリア・ラリーに投入したのだ。つまり信頼性と耐久性へのチャレンジといえた。しかもルート長は前年の約6200kmより長い、モスクワ~ウランバートル間の7000km以上へとハードルは上がっていたにも関わらず。リザルトは驚くべきもので、ラリーの総合上位10台のうち、7位以外の9台はカイエンSトランスシベリアが占めたのだった。
こうして3度にわたるトランスシベリア挑戦を経て、ポルシェは2009年に市販モデルとして、カイエンGTSの405psエンジンを搭載しつつ、ギヤ比もGTSと同じく15%ほど下げられた「カイエンSトランスシベリア」をリリースした。60km/h以内であれば地上最低高を最大で271mmまで上げられるのも特徴だった。本邦での価格は6速MT仕様の1062万円が基本で、オプション的に用意されたティプトロニックSは42万円高の1104万円。オレンジなどのアクセントカラーが施された特別モデルは、じつは総計285台のみ生産されたレアなポルシェでもある。
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その後、2代目の「958型」、弟分のマカン登場を挟んで3代目の現行「PO536型」、さらには「カイエン・クーペ」にまで進化しているのはご存知の通り。ハイエンドSUVのなかでもオンロード志向の急先鋒と思われがちなカイエン、あるいはマカンあたりは、湾岸タワマン地帯や世田谷ナンバーっぽいイメージも強まってきたが、ポルシェのSUVの始祖として20年前からやるべきことはやってきたからこそ、今日があるというワケだ。