純正カーオーディオでも2桁スピーカーが増えてきた
最近、クルマの純正オーディオのカタログを見ると、12スピーカーだの16スピーカーだの、2桁スピーカーを搭載したクルマが増えたような気がする。数が多いと、なんだかありがたみがあって、スピーカーの数が多いほど音がいいような気になってしまうが、はたしてそうなのか。スピーカーの基礎知識を覚えながら、考えてみたい。
ハイエンド・カーオーディオでは10~12スピーカーが最大構成
まず、クルマで聴く音源だが、サラウンド系の音源を除いて、基本はステレオ。つまり左チャンネルと右チャンネルの2つだ。だから最低限、スピーカーは左右の2個あればOKなのだが、1個のスピーカーで音楽のすべての帯域を再生するには無理がある。そこで高域再生に特化したツィーター、中域を鳴らすミッドレンジ、低域を鳴らすウーファー、そして超低域を鳴らすサブウーファーといった具合に、それぞれの帯域の再生に適したユニットで分担して再生しているというわけ。だから高音質を追求していくと、必然的にスピーカーの数は増えることになる。
例えば、ハイエンド・カーオーディオの場合はフロント3ウェイ+サブウーファーという構成が多い。これはフロントスピーカーがツィーター+ミッドレンジ+ウーファーの3つで構成されていて、これにサブウーファーを加えるというスタイル。3ウェイスピーカーは左右に必要だから、これだけでユニットは6個。サブウーファーもステレオのことが多いから2個プラスして、計8スピーカーということになる。あとは超高域用のスーパーツィーターを加えると計10スピーカー。ウーファーを片側2個にしても計12スピーカーあたりがハイエンド・カーオーディオのマックス数だろう。
リヤシートにも良い音を求めればスピーカーは増えていく
では、なぜそれ以上の数のカーオーディオが純正には存在するのか。それはカーオーディオの狙いが根本的に違うからだろう。ハイエンド・カーオーディオの場合、クルマの中のある1カ所(多くはドライバーズ・シート)で最上の音が楽しめるようにセッティングする。
カーオーディオは、ホームオーディオと違って、左右のスピーカーから等距離の位置に座って音楽を聴くことが不可能だし、そもそもスピーカーの装着位置に制限があるため、それぞれのスピーカーからリスナーまでの距離もまちまち。それをDSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)を使って、各スピーカーからの音が同時にリスナーに届くようにすることで、ホームオーディオの最適なリスニングポジションに座って聴いたような、最上のステレオ感で音楽を楽しむことができるわけだ。
一方、スピーカー数が多い純正カーオーディオは、良い音で聴こえるエリア(スイートスポット)を拡大する効果を狙っている。純正オーディオの場合、ドライバーだけが良い音で楽しめて、他のシートの乗員が聴く音は変というのはあり得なくて、運転席でも助手席でも、リヤシートに座っていても、そこそこ気持ち良い音で音楽が聴ける状態でなければいけないのだ。
だからダッシュボードの中央にセンタースピーカーを設けたり、天井にスピーカーを埋め込んだり、ハイエンド・オーディオでは不要なリヤスピーカーを付けたりして、どんどんスピーカーの数は増えていく。ちなみにトヨタ・アルファード/ヴェルファイアのプレミアムサウンド付き車は、天井やセンタースピーカー、サブウーファーが付いて合計17スピーカーだ。
クルマの用途に合わせて純正多スピーカーを選ぼう
スピーカーの数が増えるほど、セッティング&チューニングが難しくなるのは当然で、純正の多スピーカーの場合は、クルマの設計段階からある程度スピーカーの配置を考慮しているので、実現できるわけだ。だから、純正多スピーカーを選ぶ前には、そもそも乗員全員が満足できる音が必要なのかを考えることが重要。
もし、そんなに人を乗せることがないなら、自分1人で良い音が楽しめるシステムを組んだほうが、純正多スピーカーシステムよりも、良い音を得られる可能性が高い。
ちなみに僕のクルマはフロント2ウェイ+サブウーファーの、市販システムでは一般的なものだが、DSPによる運転席に合わせたセッティングをすることで、満足できる音に仕上がっている。サブウーファーを付けたのは、フロント2ウェイのみだと、走行中のノイズがうるさく低音がかき消されてしまうからだ。
皆さんのクルマでも、低音がちょっと物足りないと感じていたら、サブウーファーの追加は効果的だし、もしサウンドステージが低いなぁと感じるなら、ツィーターをAピラーなどの高い位置に付けてみるとステージがあがることがある。また声のあたりがか細く聴こえるなぁと感じたら、ミッドレンジを足してフロント3ウェイにしてみると、声の厚みやリアルさはグンと増す。音の良さはスピーカーの数だけでは決まらない。用途と目的によって変わってくるので、自分の嗜好するサウンドに合わせて選んでみてはいかがだろう。