アメリカを気ままに放浪3カ月:9日目~11日目
これまで2度にわたりアメリカを放浪してきた筆者。還暦を過ぎた2022年4月から7月にかけて、人生3度目のアメリカひとり旅にチャレンジしてきた。相棒は、1991年式トヨタ「ハイラックス」をベースにしたキャンピングカー「ドルフィン」。愛称は「ドル」。一度LAに出戻って、仕切り直しの再スタート。今度は北西へ向かいます。
5月8日 LAから北西のレイク・カシータスへ
5月7日、ロサンゼルスから妻が日本に帰り、いよいよぼくとキャンパーの「ドル」はふたりきりになった。これからが旅の本番である。坂道でのオーバーヒート問題が解決したわけではないが、ある意味、エンジンの調子がいいことは確認できた。どうやってドルとの旅を続けていくか、手探りでスタイルを見つけていくことになる。
最初の目的地に選んだのは、ヴェンチュラの郊外、ロス・パドレス・ナショナルフォレスト内にあるレイク・カシータスのキャンプ場。距離も手頃だし、AKIRA隊長から近くにあるオーハイという町が面白いとアドバイスをいただいた。
フリーウェイ101をヴェンチュラで下りたついでに、町をひと流しする。ここに「パタゴニア」の本社があると聞いていたからだ。寄ってみると、驚くほどこぢんまりとした本社ビルに小さなショップが併設されている。店員さんと話をしてみると、創業当時、本社だった小さな倉庫が裏に残っているという。特別に入れてもらうと、そこには1970年代
ゆったりとした文化が流れる町、オーハイ
レイク・カシータスに到着してみると、期待以上にきれいなキャンプ場だった。緑豊かな広大な敷地に200以上のサイトが機能的にレイアウトされている。夕暮れの斜光に浮かぶキャンプグラウンドは、旅の初日に相応しい美しさだ。
翌日は、オーハイの町を散策した。オーハイとは、ネイティブの言葉で「月」を意味するという。スノッブでスピリチュアルなライフスタイルを好む人たちが集まる独特な雰囲気の町である。町を歩いてすぐに気がつくのが、チェーン店がまったくないこと。地元経営のレストラン、ファッション、アンティークショップなどが軒を連ねている。
オーハイのアイコン的なショップが、「バーツ・ブックストア」だ。道路に向かって本を並べているのにも驚いたが、敷地内もオープンエアになっていて、まるでピクニックエリアで本を選ぶようなレイアウトになっている。もちろん、品ぞろえもユニーク。しばし、ハイな時間を過ごすことができた。
筋金入りヒッピー世代の放浪作家・ジェイ
オーハイの郊外の公園で休んでいると、フォード「エコノライン」をベースにした1994年型「タイオガ(TIOGA)」に乗るジェイ・ノース(Jay North)という男と知り合いになった。オーハイの町でもヒッピー風な人たちを見かけたが、ジェイの風貌は際立っている。タイオガのボディに張りつけたトーテムポール風のモニュメントも異様だ。
ジェイは作家で、74冊の著作があるそうだ。「Jay Books」という自分の会社で本の販売をしている。日本には取次店という独特の流通経路があるが、アメリカをはじめ各国では、自らが版元となって本を販売していることが多い。
御歳74歳というから、まさにヒッピー世代。あのカウンターカルチャーをまともに受けた年齢だ。すでに妻も家族も他界していて、15年前に家を売却し、キャンピングカーで暮らす、いわゆるノマド生活となった。
仕事が全盛のときは、版元からの依頼で全米を旅行し、ほとんどの州、ほとんどの国立公園を回ったという。その記録はリヤにずらりと貼った国立公園のステッカーに見ることができる。彼にとっては勲章だろう。
老バンライファーと3日ほどともに過ごす
フライフィッシングが趣味など共通点も多く、自然と毎日、同じ場所で落ち合うようになった。知り合って3日目、ぼくが彼を手作りランチに招待し、彼はぼくに本を一冊くれた。「I am Bear Watcher Watching Bear Watching Me」という本だった。短い子ども向け(?)の本で、ぼくはヘッドライトの灯りを頼りに、ひと晩でそれを読み切ってしまった。
「もう本も売れない。でも、何かはしなくちゃいけない」。ぼくは1泊40ドルのフルフックアップのキャンプサイトに泊まっているが、ジェイはどこかのランチ(牧場)にキャンパーを停めさせてもらっているようだ。もしかしたら、勝手に停めているだけかもしれない。
「また、君のように旅がしたいよ。このあとはどこに行くんだい? え、決めてない? それならケーンビルがいい。あそこはきれいな町だ」。ふたりで老眼鏡を行ったり来たりさせながら、ナショナル・ジオグラフィック製ロードマップをチェックすると、セコイア国立公園の南に米粒のような小さな字で「Kernville」という町が見つかった。
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