日本を代表する名だたる高級車が消えていく……
新型トヨタ「クラウン」が、16代目として発表された。4ドアセダンも残されるが、当初はクロスオーバー車として発売予定だ。
かつて、競合とされた日産の「セドリック」や、プリンス時代を発端とする「グロリア」は、すでにその車名が消えた。いままでは、日産「フーガ」として販売されていたが、2022年8月をもってその名も消えてしまった。ホンダの上級4ドアセダンであった「レジェンド」も、販売を終えている。三菱の「デボネア」もない。では、なぜクラウンのみが残れたのだろう。また、なぜ、4ドアセダンではないクロスオーバー車もクラウンと名付けたのだろうか。
メイド・イン・ジャパンに挑戦した初代クラウン
新型クラウンの発表会で、豊田章男社長は「トヨタのすべての挑戦は、クラウンから始まる」と述べている。実際、1955年の初代トヨペットクラウンは、第二次世界大戦前後を通じて本格的量産市販の乗用車としてトヨタ初といえるクルマだった。なおかつ、豊田社長の挑戦という言葉に含まれるはずだが、初代トヨペットクラウンはトヨタ内製の自社技術のみによって開発し、製造されたクルマでもあった。
一方、他社は当時、海外の自動車メーカーの委託製造であったり、技術面で提携をしたりしての製造だった。クルマにおける日本のものづくりの原点は、トヨペットクラウンであるといって過言ではないだろう。その後、たとえば自動変速機もトヨタは自社独自の技術で開発、製造し、トヨグライドという名称を与えている。
クラウンとは、単にトヨタの最上級4ドアセダンの名という以上に、トヨタのものづくりを代表し、象徴する車名ともいえる。したがって、そう簡単に捨てるわけにはいかないはずだ。
新型はクラウンの伝統である「挑戦」に挑んだ
そのうえで、新型クラウンがクロスオーバー車で売り出されるにもかかわらず、なぜクラウンの車名を使うのか。クロスオーバー車であれば別の車名でもよいかもしれない。そして後日、4ドアセダンが追加されるとのことなので、そこでクラウンの車名を使う選択肢もあったかもしれない。
しかし、まずクロスオーバー車で発売しはじめるというのは、67年の歴史を持つクラウンとしての新たな挑戦でもあるのだろう。
市場は、世界的にSUV(スポーツ多目的車)人気だ。なおかつ、国内販売では大型ミニバンの「アルファード」がクラウンの5倍も売れている。トヨタの原点といえるクラウンの車名を残すにも、新たな戦略が必要であったのは間違いないのではないか。それが、クロスオーバー車での発売開始だ。
見た目はクロスオーバーでもしっかりとクラウンらしさを感じた
そのうえで、まだ試乗はしていないが、発表会場で展示してある新型クラウンに乗り込むと、室内の雰囲気はまさしくクラウンであり、クラウンの空気感を伝えてきた。見栄えはクロスオーバー車であっても、乗ればクラウンに間違いないという確信を得られる。この乗車感覚は、トヨタならではの手法ではないか。クラウンとは何かという価値を熟知すればこそ、乗ればそこはクラウンの世界が広がるのである。
最後に、新型クラウンはグローバルカーとして世界へ販売される。国内で高い評価を得てきたクラウンが、世界でどう受け止められるのか。ここにも挑戦する姿がある。すなわち欧米の自動車メーカーが口にする「ヘリテイジ」とは、ただ守ることではなく、攻めの挑戦を伴わなければ伝統の価値は継承されないということだ。新型クラウンへの期待は、まさにそこにある。