9台限定の珍しいコラボ
2022年9月、RMサザビーズ欧州本社が、スイスの景勝地サン・モリッツの5つ星ホテル「ケンピンスキー・グランドホテル・デ・バン」を舞台に開催した「St. Moritz」オークションでは、イタリアの老舗カロッツェリア、ザガートが、21世紀を迎えたのちに製作した個性的な作品たちが相次いで出品された。
今回はその中から、ある意味もっとも珍しいであろうベントレー×ザガートの作品、「コンチネンタルGTザガート」のあらましとオークション結果についてお話しさせていただくことにしよう。
21世紀の名作、コンチネンタルGTがベース
ベントレー・コンチネンタルGTザガートの物語のプロローグは、2002年のパリ・サロンにてベース車となる初代コンチネンタルGTがデビューしたことによって、幕を開けたと言えるだろう。
1931年以降、ロールス・ロイスの1ブランドとなっていたベントレーの存在感は、1970年代になると、かなり弱まってしまっていた。しかし、1985年に登場した「ターボR」では圧倒的な速さとエンターテインメント性から再び勢力を取り戻し、その後も「コンチネンタルR」や「アズール」など、ベントレー独自の超高級モデルとともに、ブランドの威光は完全復活を遂げたかに見えた。
しかし21世紀を迎える時期になると、これらの超豪華なハンドメイドの恐竜たちばかりではブランドを維持することができないという厳しい経済的現実が見えてくる。そこで新たにオーナーとなった独フォルクスワーゲン・グループの出資により、ベントレー古来の魅力をより若い購買層に広げるためのプロジェクトがスタートしたという。
そんな経緯のもとに誕生した初代コンチネンタルGTは、20世紀までのベントレーの常識をことごとく破る「マイルストーン」というべきモデルとなった。
最高出力560psに達するW12ツインターボエンジンがもたらした、300km/h超級の最高速度に代表される走行性能。高度な4WDシステムを組み合わせたことで得られた異次元的スタビリティなど、4人乗りGTカーでありながら本格派スーパーカーとしての実力も手に入れていた。
また、このモデルが登場するまでは戦後ベントレーの最高傑作といわれていた、1950年代の「Rタイプ・コンチネンタル」のスタイリングを巧みに引用。ファストバックやキックアップしたリヤフェンダーなど、「ベントレー・デザインの父」と呼ばれるジョン/ブラッチリーが構築したRタイプ譲りの優美な英国的ラインを、みごと21世紀のクーペとして昇華させたのが、初代コンチネンタルGTであった。
しかしどれだけ魅力的なクルマであっても、もっとエクスクルーシヴに仕立てたいという贅沢な顧客は一定数存在するのが、この世界の常である。そして世界最速の英国製4シーター・グランドツアラーに、ザガートの個性的なルックスを掛け合わせたら……? と、考えそうなエンスージアストを見込んで、イタリア・ミラノの老舗カロッツェリア、ザガートがコンチネンタルGTをベースとする特装モデル「コンチネンタルGTザガート」を、同社の慣例にしたがって世界限定9台のみ製作することになった。