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1000馬力の日産R33「スカイラインGT-R」誕生秘話。「トップシークレット」流チューニングのヒミツとは

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TEXT: 増田髙志  PHOTO: GT-Rマガジン編集部

R33の製作でGT-Rの限界を知り1000馬力を狙う

 永田代表のコンセプトは「壊れない」クルマ作りだ。それを実現させるために、自分で作って自分で走り込む。何をしたか、どこに手を入れたかを一番知っている立場だから、躊躇なく踏み込んでいける。そのときに音や振動に注意を払い、不安な要素を排除していく。こうして走りに対して強靭なクルマを生み出す。

「壊れないクルマにするには、限界を知る必要があります。ユーザーのクルマは限界の手前で仕立てなければならないですからね」

 つまり、デモカーで限界に挑むことも永田代表の仕事だ。壊れたら必ずその原因を突き止めて予防策を考える。その繰り返しで、揺るぎない信頼性を築き上げていく。

「さまざまなデモカーを作ってきましたが、GT-RならR33が一番思い入れがあります。今では当たり前になったゴールドのボディカラーもこのクルマが最初ですし、オープンしたばかりのツインリンクもてぎのオーバルコースに初めてタイヤのブラックマークを付けたのもこのクルマでした。とにかく印象的なんです」

 ちなみにトップシークレットのデモカーのゴールドは「金メダル」からきている。金のパールをたっぷり使ったオリジナルカラーだ。

 永田代表が32歳から37歳まで夢中になったR33の主なスペックは、HKSの1mmオーバーサイズの鍛造ピストンにH断面コンロッド。カムはIN/EX共にアペックスの320度。タービンはGT2540の2基掛けだ。当初は80φの Z32用エアフロを二つ流用して、ノーマルコンピュータで制御していた。しかし800psが限界だったので、さらにパワーを得るために、HKSのFコンVプロを使ったエアフロレスのDジェトロ制御に変更。2.2kg/cm2までブーストが掛けられるように、圧縮比を8まで落として大台の1000psを狙った。

「FコンVプロを勉強したのもこのクルマです。あれこれ疑問が多くてHKSを質問攻めにした覚えがあります」

 制御が理解できてパワーが出せるようになると、今度はヘッドガスケットが抜ける症状にハマったという。「強度に定評のあるガスケットをいろいろと試したのですが、フルブーストを常用すると水を吹いてしまうんです。クーパーリング加工まで施したけれどやっぱり駄目でした。冷やすとまた走れるのですが、気泡が冷却水に混ざってしまうのです」

 永田代表はアッパータンクやヘッドへと続くインマニにエア抜きを数多くつけて、騙し騙し乗っている間に対策を探っていた。あれこれ手を尽くし打開策を見つけたのは3年近くも経ってからだ。

「原因はヘッドガスケットの強度不足ではなくノッキングでした。見当違いな部分に一所懸命に手を入れていたんです」。聞こえにくい細かいノッキングを見逃して、点火時期を攻め過ぎていたのだ。2~3度遅角させることで、ガスケット抜けは嘘のように治まった。点火時期の重要性もR33で学んだことになる。

 散々手を焼いて、やっとトラブル知らずでゼロヨン9秒8、最高速330km/hがマークできるR33GT-Rが生み出せた。当時は仙台だろうが、九州だろうがゼロヨン大会があれば自走で駆けつけて、そのまま走って帰ってくる。すでに不具合は出し尽くしているから、安心してどこへだって走って行ける。

パワーと耐久性を両立し壊れないクルマを作る

「トップシークレットのクルマは壊れない」という耐久力をチューニングフリークに印象付けたのもこのクルマだ。その噂を聞きつけたのか、映画の劇中車としても登場している。

「壊れないのなら、とういうことで映画『湾岸ミッドナイト』にR33が使われました。いい思い出です」

 これまでユーザーカーを壊さないために、散々デモカーを壊してきた永田代表は、R33であらためてバランスの大切さを実感したという。圧縮比とブースト圧、燃調と点火時期というように、その項目と関係の深い別の項目をバランスさせて仕立てていく。この当たり前に行っていた行為に意識を向けることで、効果がより研ぎ澄まされる。

「R33は最終的に、クラッチとトランスミッションのバランスがポイントになりました」。エンジンは1000psまでなら不安なく出せるようになったがクラッチが覚束ない。そこでクラッチを強化すると、今度はトランスミッションが音を上げる。壊れないようにドグミッションにするかどうかでクラッチが決まる、ということだ。

「そういえば最新のR35もトランスミッションがネックになります。デモカーでいろいろと試した結果、エンジンはまだ壊したことがありませんが、トランスミッションは持たなかった」と言う永田代表。その対応策はブースト圧を中間域までは抑えて、高回転で上げるセッティングだ。こうすることでトランスミッションのトラブルが未然に防げる。これも、回転数とブースト圧とのバランスが肝になっている。

 突き詰めていけばパワーと耐久性、この二つをハイレベルでバランスさせることが、R33をはじめとする永田代表が作り上げるクルマの必須条件だ。それと忘れてならないのが、決まった場所でしか走らせられない競技車両ではなく、公道を自由に走り回れるチューニングカーを生み出しているということ。だからR33は街中での普段使いを意識して、ドグミッションはHパターンであり、Sタイヤも履かない。

 永田代表にとって公道の栄えあるゴールドメダリスト第一号が、このR33GT-Rなのだ。

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