「速さ」だけではないスキルがレースでの強みに
佐々木雅弘選手がレーシングドライバーとして高く評価されているのは、そのセッティング能力。自らメカニックとしてクルマをいじり、どういじるとどう変わるという膨大な経験値を蓄積している。
だからこそ、クルマを作っていくことができる。たとえば、ピットインしてのコメントが「もっと曲げたい」ではなく、「フロントスプリングをああして、リヤの車高をこうして」と具体的な指示ができるので、セッティングを正解に導くのが速く、また、クルマを作っていくことができる。だからこそ、現在では市販車の開発ドライバーとしての役割も担っているのだ。
じつはレーシングドライバーにも、そういったことが得意なドライバーとそうでないドライバーがいる。それは速さとは無関係。セッティングはできないがクルマのことを把握する繊細なセンサーがあり、セッティングのズレや不調を訴えるドライバーもいる。そういった場合はエンジニアがそのインプレッションから、調整する部位を決めて指示を出す。
対して佐々木雅弘選手のようなドライバーは、自身の中にエンジニアも備えている状態なので、ひとりでセッティング変更の指示を決めることができ、ピットインと同時に「もうちょっとあーしてこーして」という具体的な指示が出せるのだ。
そういった特殊技能があるからこそ、いまやフォーミュラ経験者が多い86/BRZワンメイクレースでもチャンピオンを獲得できるのである。
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正直、純粋な速さだけでいえば、18歳から始めるとカート経験者に打ち勝つことはなかなか難しい。もちろん不可能ではないが、ドライビングの経験値では大きな差があるのも事実だ。
しかし、クルマのことを理解して、どこにどんなパーツが使われていて、だったらどこをどうすると、クルマの動きはどう変わる。だから、まずはこっちからいじって、次にはこっちをいじる、というようなセッティング能力があれば、速さだけではない強い味方を手に入れることができる。カートによる純粋培養でなくても十分に太刀打ちできるのだ。