手に入らないボディ部品をイチから作り上げるという英断
不慮の事故で負った損傷や錆による腐食でボディの修復を諦めざるを得ない。そんな切実な悩みを抱えるオーナーのために試行錯誤を重ねるGT-R専門の板金ショップ『ガレージヨシダ』。同店がついにオリジナルのボディパネル製作に着手した。その画期的とも言うべきアプローチを本邦初公開する!
(初出:GT-R Magazine 165号)
「犠牲になる個体を減らしたい」そんな思いが根底にはあった
今から5年前、すでに製造廃止になっていたR33/R34の純正フードレッジを何とか製作できないか。『ガレージヨシダ』の吉田光造代表は真剣に考えていた。第2世代GT-Rのボディリフレッシュの手段として、ブラストで塗装を剥離したホワイトボディをメーカーのラインで電着塗装するという画期的な手法を実現。また、ボディを交換するという斬新なアイディアで、レストア済みリビルトボディの製作販売も開始した。
「これまでさまざまな手法でGT-Rのボディリフレッシュと向き合ってきましたが、製廃でどうしても手に入らない部位はドナーとして別の個体から移植するしかありませんでした。つまり、一台を直すために別の一台が犠牲になる。救われるGT-Rがある一方で、この世からいなくなる個体もある。そこに葛藤がありました」と吐露する吉田代表。
一台でも多く第2世代GT-Rを残したいという気持ちの裏には、そんなジレンマもあったという。大掛かりな板金は職人の腕や経験が肝になる一方で、人間の感覚だけではなく数値としてのデータも重要だと考える吉田代表。パネルの切除や溶接によって修復したボディの強度を数値化すべく、非破壊検査機(ストレインゲージ)を用いて修復した骨格の強度(応力)測定も始めている。
そして今回、冒頭の構想がようやく実現に漕ぎ着けた。吉田代表いわく、
「自動車メーカーにパネルを納入している工場に協力を得ることができ、純正同形状の鋼板を新規で興すことができました。先駆けとして製作したR34のフードレッジをアッセンブリーで車両に取り付けて検証します。これが上手くいけば、製廃になっているほかのパネルも純正代替部品としての製作が可能になります」
3Dスキャニング技術を駆使し純正パネル形状をデータ化する
純正部品として供給されていたフードレッジは、通称ストラットタワーと呼ばれるフロントサスのアッパー取り付け部のパネルで、ASSYとして販売されていたモノ。吉田代表は大事に取っておいた純正のフードレッジを業者に持ち込み製作を依頼。3Dスキャンで各部の形状や寸法を立体的に測定してデータ化し、それを元に設計図を起こして7枚に分割した形で純正品と同形状のパネルを製作してもらったという。
「ただ同じ形にしたというだけではなく、実際に純正のボディパネルを製作している日本のサプライヤー企業に協力を仰ぐことができたのが大きいです。パネルはシャシーメーカーが実際に採用している自動車用の鋼板で、引っ張り強度などはすべてメーカーの基準をクリアしています。今回製作したフードレッジは純正と同じ板厚ながら、引っ張り強度は当時の純正品に採用されていた鋼板よりも高いものを採用しました」
「ASSYではなく7枚のパネルとして製作したのは、組み上げる前にあらかじめウェルドシーラーなどでパネルの合わせ目に防錆処理を施した上で電着塗装するためです。純正のパネルは組み上げた状態でドブ漬けされますが、電着はパネルの合わせ目に完全には入りません。それが原因でR33やR34のフードレッジの合わせ目は錆びやすくなっており、浸食すると表面まで浮いてきてしまうのです」
フードレッジ以外にも、今後は製廃になっているR32のメインフレームやコアサポートなどを製作予定とのこと。ほかの部位も3Dスキャンでデータ化し、ハードとしてではなくソフトとして保存しておくことも可能だという。
「極端な話、正確なデータをしっかりと取ればボディパネルのすべてを新規で製作することも不可能ではないはずです。製作コストや職権打刻できるかどうかという問題はさておき、技術的にはホワイトボディの再現もできると思います。古いクルマのレストアが根付いている海外では、アフターメーカー数社がフォードのトラックやクラシックMINIのボディキットを独自に作って販売しています。文化の違いはあるものの、これだけ多くのファンに愛されている第2世代GT-Rもそういう環境を作って後世に残したい。それがわたしの夢でもあります」
最新技術を駆使しパネル単体の状態でプレス成型
今回新規で製作したフードレッジパネルは、吉田代表が自身で活用するだけではなく、オリジナルパーツとして販売することも検討しているそうだ。
「純正部品同等の精度なので、当店だけではなく事故車の修復などを手掛けている板金工場ならば交換作業は可能だと思います。その場合、純正同様に組み上がったASSYとして供給するのがいいのか、目的に応じてパネル単体で販売したほうがいいのかは、興味を持ってくださる同業の業者さんの意見をうかがった上で柔軟に対応できればと思います」
今回の取材は、フィッティングの検証用に購入したという修復歴なしのR34Vスペックにオリジナルのフードレッジを取り付けるタイミングで行った。
「走行18万kmの個体をオークションで入手しました。フードレッジ上部には錆が浮いていますが、程度としては“中”と言ったところでしょうか」とのこと。
実際に切除した助手席側のフードレッジ上部のパネルを剥がしてみると、ボロボロと錆が落ちてきて、その内部は完全に腐食している状態であった。
今後はパネルの新規製作に加え、施工後の各部寸法や強度計算結果など、見た目でだけではなく数値として証明できるデータを示していきたいと語る吉田代表。今後の展開からも目が離せない。
(この記事は2022年6月1日発売のGT-R Magazine 165号に掲載した記事を元に再編集しています)