デザインも使い勝手もスマートに作り込まれていた
もちろん実車は、エクステリア、インテリアともに凝っていた。とはいえエクステリアなど、決して奇をてらったところはなく、むしろオーソドックスに見えるほどだったが、久しぶりにカタログ写真を眺めていると、今見ても古くささがなく、派手ではないが丁寧に作りこまれたデザインだったと感じられる。当時のマツダ車は五角形グリルをデザイン上の統一したモチーフとしていたが、このベリーサはフロントに薄く開けられたエアインテークがうっすらと五角形風の形状をしている程度。6ライトのサイドビューも落ち着いたデザインだ。
一方でインテリアのこだわりのポイントがシートで、シートフレーム自体に上級セダン「アテンザ」のそれを用い、クラスを超えたゆったりとした着座感を実現していたのは今でも印象に残っている。シート表皮もほかのマツダ車とは一線を画す世界観でまとめられ、インパネやトリム類の表面も、部位ごとに異なるシボ、表面処理が施され、ひと手間、ふた手間かけられた上質な風合いが味わえた。シートはその後も折々の特別仕様車、限定車等でレザーやパイピングの施された特別なデザインのものなど多数リリースされている。
機能面では、約3000曲の収録を可能とした20GBのハードディスク採用のミュージックHDD(CDからの録音も可能だった)、カードキー方式のキーレスエントリーなど、上級車なみの吟味された装備を設定。ラゲッジスペースには内部を2段に分けて使用できるフレキシブルボード(カタログでは「たとえば上段はコートやジャケット」などと、まるで往年のルノー「5バカラ」のような使用例が文面として記されていた)や、背面のストラップを引けば簡単に後席背もたれを倒すことができるワンタッチフォールドシートなど、スマートな使い勝手を実現する設えを備えていた。
日常的に気持ちよく乗りこなせた、復活してほしい1台
このベリーサの当時の開発主査のSさんは「赤いファミリアXGが自身のクルマの原体験で、そのクラスレスだった楽しさ、心地よさを思い浮かべて開発した」と話をされていた。またデザインをまとめたチーフデザイナー(当時)のKさんからは「シックでモダンな個性を表現した。ミニ(当時のR50・BMWミニ)のような世界観は意識したことのひとつ」という話を当時の試乗会の場で聞いたことをよく覚えている。
ベリーサは2004年から2016年と、じつに12年もの長いライフをまっとうした。初代「フェスティバ」(オートラマ)、「レビュー」(オートザム)など、マツダ製のチャーミングなコンパクトカーはほかにもあったが、なにもSUVだけに限らず、年齢、性別を問わず日常的に気持ちよく乗りこなせたベリーサも、今の時代にこそ甦ってほしい1台だ。