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24年付き合った日産R32「スカイラインGT-R」の山あり谷ありのチューニングとは? 最終的には快適性重視に

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TEXT: 増田髙志  PHOTO: GT-Rマガジン編集部

大きなツインターボよりビッグシングルを選択

 S-powerが手掛けるエンジンのボーリングは、絶大な信頼を寄せる内燃機工場にお願いしている。ここ以外ではS-powerの魅力が引き出せないと断言できるほどの巧みな技を持っている。シリンダーをボーリングするときの最終的な磨き作業であるホーニング。この技術が優れているのだ。

 ホーニング加工機はシリンダーの内側に砥石を当てて回転させて、それを上下に往復させながら研磨していく。その特性上、往復のために上と下で向きを変えるときに、そこで一旦止まらなければならない。つまりそこだけがわずかに広くなる。しかしこの工場では、上下に往復するストロークの位置を変えることで内径を均一に仕上げられるのだ。この0.001mmレベルに拘った作業を施しているため、鈴木代表が組んだエンジンは慣らしが必要ない。暖機していればすぐに全開が可能なほどの精度だからだ。

 セッティングは実走に近い負荷を掛けられるダイノパックを使って詰めていく。その勘所は最高速仕様でのセットアップだ。ゼロヨンを楽しむユーザーにも400mを走り切ったらそれでよしとするセッティングではなく、必ず5速、あるいは6速全開までのセッティングをきっちり取ってから渡す。

 こうしたノウハウを一緒になって確立してきたのがこのBNR32だ。忘れもしないこのクルマの最初のオーダーは、いきなりタービン交換だった。S-powerのオープン当時だからすでに約24年も前になる。

 とにかくパワーを追求したいということでツインターボから、T88–33Dを使ったビッグシングルターボに変更する。鈴木代表によると、大きなツインターボは、ビッグシングルよりも下がなくなり、本来のメリットが生かせなくなってしまうそうだ。さらにビッグシングルだと上の抜けもいい。そのための選択だ。

 腰下はノーマルでカムはIN/EX共に264度。インジェクターは700ccで、エアフロを70φから80φに加工してノーマルコンピュータで制御する。ブースト1.6kg/cm2で700psオーバーの実力だ。この迫力に気分をよくしたオーナーは、パワーを上手く使い切るためにシフトミスが減らせて頑丈なホリンジャーのミッションを22年前に導入した。

ビッグシングルターボを搭載したエンジン

大切なGT-Rにさらなる愛着を持ってもらう儀式

 オーナーは医療関係のコンピュータに携わる仕事だったのでコンピュータについては詳しい。鈴木代表も疑問点を教えてもらっていたほどだ。そんな理由から、このユーザーに限り、自分でコンピュータ制御の微調整を行っていた。空燃比計も装着し万全を期してのセッティングのはずが、あるときエンジンを壊してしまった。燃調が薄いとエンジンは軽く回ってフィーリングがいい。その加減を誤って薄くし過ぎてしまったのだ。瞬時に異常燃焼が起こって、容赦なくピストンを溶かした。

 ブローしたのが17年前。エンジンは、先述の内燃機工場でボーリングして2.8Lに排気量アップ。それまでは大気開放だったウエストゲートからの排気は、この機会にフロントパイプに戻すようにする。同時にブースト圧を1.4kg/cm2に抑えてパワーを650psに落とした。このころからパワーばかりでなく扱いやすさも気にするようになってきた。

 12年前にはHKSのVカムを導入する。それまでは5500rpm以降しか使えなかったが、バルタイが可変することで4500rpmからでも威力を発揮。ピークパワーは650psと変わらないが、パワーバンドが広がって、ブーストが掛かる前からトルクが湧き出る。特に街中では乗りやすくなった。

 エンジンが扱いやすくなると、今度はホリンジャーの癖のある特性が気になってくる。ニュートラルからローへ入れる際には音と振動がモノすごい。交差点では周囲の人を驚かせてしまうほど強烈だ。オーナーは10年前にあんなに欲しかったホリンジャーを、WPC処理で強化したBNR32用の純正ミッションへ交換を決意。こうしてますます快適性に磨きが掛かる。現在はエアフロをR35用に換えたぐらいで、他はほとんど同じ仕様で楽しんでいるという。

「このオーナーさんもそうですが、皆さん自分のRが大好きなんです。そこで、エンジンをバラした場合はなるべく作業を見てもらうようにしています。滅多に見られませんからみんな喜んでくれます。そのときにボルトを1本、自らで締めてもらいます。この儀式でさらに自分のRに愛着を持つ。それで愛車の扱いは間違いなく丁寧になりますね」

 このR32はS-powerの定番メニューとは違う。しかし20年来の付き合いでさまざまな出来事を共有してきた。歳を重ねることで、GT-Rに対するチューニングの方向性が変わっていくが、GT-Rへの熱い想いは揺るぎない。そんなオーナーの心模様も含めて鈴木代表にとっては感慨深い特別な1台なのである。

(この記事は2018年12月1日発売のGT-R Magazine 144号に掲載した記事を元に再編集しています)

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  • ビッグシングルターボを搭載したエンジン
  • 鈴木満代表
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