前輪駆動の技術レベルを向上させるとともに、クルマの普及にもひと役買ったスズライト
市販に漕ぎ着けたスズキ・スズライトは当初、セダン(乗用車)のSSとライトバンのSL、ピックアップ(ボンネットタイプのトラック)のSP、そしてデリバリーバンのSDも追加されたワイドバリエーションの展開を目指していました。基本的なメカニズムは全車共通しており、搭載されたエンジンは空冷の2ストローク直列2気筒を横置きにマウントしています。
排気量は359cc(ボア×ストローク=59.0mmφ×66.0mm)で最高出力は16ps。ボディはフレーム付きでサスペンションは前後ともにダブルウィッシュボーン式の4輪独立懸架と、先進的なスペックを持っていました。発売当初はこれをコイルスプリングで吊っていましたが、国内の道路はまだまだ悪路も多く、耐久性が懸念されたことから、スプリングをコイルから横置きにマウントしたリーフスプリングを使用するように変更されています。
ボディサイズは軽自動車枠に収まる2995mm×1295mm×1400mmでホイールベースは2000mmと、当時としてはロングホイールベースに設定されていました。特徴的だったのはタイヤサイズが4.00-16-4Pと大径だったこと。これは小径のタイヤが市販されていなかったからで、オートバイにも通じるサイズでした。
市販が開始された時点ではセダンに加えてライトバンやピックアップもラインアップされていましたが、ライトバン以外のモデルは販売が伸び悩み、1957年には一度、車種整理が実施され、ライトバンのみとなってしまいました。
そして1959年に行われた最初のフルモデルチェンジでも、ライトバンのみが登場していました。これは商用車ならば物品税が課税されないことで販売価格を低く抑えることが可能になる、というのが最大の理由。そう、20年後にバンモデルのアルトをリリースし、“軽ボンネットバン”という軽の乗用車として新しいジャンルを切り開くことになるのですが、その原点は1959年に登場したスズライトTL原点として存在していたのです。
スズライトTLには3年後に乗用車モデルのスズライトTLAが追加設定され、前輪駆動の乗用車が復活しています。ただし、1967年のモデルチェンジで登場した後継モデルはフロンテを名乗るもリヤエンジンの後輪駆動に一新されていました。そしてスズライトTLAに代わって前輪駆動の流れを受け継ぐことになったモデルが、1966年の10月にホンダ(本田技研工業)が発表したホンダN360でした。
軽トラックのT360と小型スポーツカーのS500 で4輪マーケットに進出したホンダは、N360が初の量販モデルとなり、以後も前輪駆動をメインにした商品ラインアップを展開してきました。またN360が発表される半年前に富士重工業(現SUBARU)が発売したスバル1000は、小型乗用車として初の前輪駆動モデルとなっています。
日産は1970年に発売した初代チェリーで前輪駆動車をラインナップすることになりましたが、トップメーカーのトヨタは、1961年に発売した初代パブリカを当初は前輪駆動車として開発を始めたものの、技術的に困難な問題があるとして途中から後輪駆動に変更して開発を継続。そのまま後輪駆動として発売された経緯があり、実際の前輪駆動車は1978年に登場するターセル/コルサまで待たされることになりました。
そのころには国内メーカーのほとんどで、小型車は前輪駆動に“宗旨替え”していて、それは今日まで続いており、前輪駆動に関する技術レベルも大いに向上しています。