元祖かつ最新の高級SUVの性能と使い勝手に感動
イギリスが誇るオフロード四駆の古典であり、近年はラグジュアリーSUVの元祖とも讃えられるランドローバー「ディフェンダー」が、最新プラットフォームでフルモデルチェンジを果たしたのは2019年。翌2020年には日本でもカタログモデルとして販売がスタートし、大きな人気を誇っている。今回、「ディフェンダー110」の直6ディーゼル仕様をお借りして関東から秋田まで往復のロングドライブを試してみたところ、線状降水帯による豪雨に遭遇。災害の発生も危ぶまれる状況のなかで、本格SUVの実力を体感することとなった。
試乗したのは3リッター直6ディーゼル仕様
まずは基本情報をおさらいしておこう。最新型ディフェンダーのラインアップは大別して3種。「ディフェンダー90」がショートホイールベース(2585mm)で2列シート、「ディフェンダー110」がロングホイールベース(3020mm)で2列シートに折り畳み式の3列目シートが備わる。そして110のボディをさらにストレッチし、3列シート8人乗りとした「ディフェンダー130」が2023年モデルから日本にも導入されることとなり、2022年6月から受注を開始したばかりだ。
今回お借りしたのはディフェンダー110の「X-Dynamic SE」というグレードで、パワートレーンは3Lの直列6気筒ディーゼルターボエンジンが最高出力300ps/最大トルク650Nmというスペックで、さらに24.5ps/55Nmのモーターを備えたマイルドハイブリッド。これに8速ATを組み合わせるフルタイム4WDだ。
ボディサイズは全長4945mm×全幅1995mm×全高1970mmという堂々たる巨躯で、軽量アルミニウムのモノコックボディが自慢とはいえ車両重量2420kg。これほどのサイズのSUVに乗るのは久しぶりということで、取り回しに気を使いつつ、長距離での給油コストも心配しながらの試乗となった。
ディーゼルのイメージを塗り替えるシルキーな乗り味
ディフェンダー110に乗ってまず驚かされたのは、3L直6ディーゼルターボの「インジニウム」エンジンの静かさとなめらかさだ。近年の欧州ブランではディーゼルエンジンの進化が著しく、かつてのような「ガロガロ」といったディーゼル特有の音と振動が大幅に軽減されてきているものだが、これはもう、それらとは別次元の仕上がりなのだ。
大排気量車ではスーパーの駐車場など狭いところでの動き出しでペダル操作に気を使いがちだが、ディフェンダー110はペダルをソフトに踏み始めるとじつにソフトにスッと動いて、その巨体からは想像できないほど乗り手に優しい感触。そのまま市街を低速域で走っていてもドライバーの意思とのズレやギクシャク感はない。ボディの見切りがいいので道幅の狭い路地でもストレスを感じない。
高速道路を走ってもエンジンは静かかつスムースで、ブラインドテストをしてもガソリンエンジンと区別するのは難しいだろうといえるレベルだ。ロードノイズも静かで、試乗車にはグッドイヤーのオールテレインタイヤ「ラングラー」の255/60R20が装着されていたが、ノイズの少なさ、直進安定性の高さに、今どきのオフロード系タイヤの進化ぶりにも刮目させられた。
そして箱根~伊豆のワインディングに持ち込んでみても、「インジニウム」エンジンはスムースによく回る。上り坂でや長いストレートでスロットルを強めに踏めばようやくディーゼルらしい唸りをあげるものの、8速ATは基本的に最大トルクを発揮する1500~2500rpm付近をキープして心地よい音を響かせる。コーナーでも腰高を感じさせないフラットな姿勢のまま、誰でも安心して曲がっていくことができるだろう。
「シルキーシックス」とはBMWの直6エンジンを讃える決まり文句だが、このディフェンダーが積む直6ディーゼルターボの重厚でなめらかな質感は、まさしくその域にある。
街乗りでもオフロードでも安心な装備が充実
本格オフロード性能を備えるディフェンダー110だが、今回はオフロードコースに足を踏み入れることはなく、東京都内と拙宅のある神奈川県小田原市内、それに東北道で仙台を経由しながら秋田県大館市と秋田市の市街地までという行程。普段使いの視点で重宝した機能をいくつか紹介しておこう。
まず乗り降りの際は、電子制御エアサスペンションで車高を40mm下げられるのが助かるポイント。それでも小柄な人だと少しよじ登るような形になるが、運転席と助手席ならダッシュボード両脇がグリップ形状になっていてサポートしてくれる。なおオフロード走行では標準の車高から75~145mmアップできる。リヤのラゲッジルーム内にもエアサス上下スイッチが備わっているあたり、使い勝手へのこだわりが徹底している。
ルームミラーはデジタルとアナログの切り替えが可能で、後方視界の悪さを補う装備。ただし、専用カメラが高さ2m近いルーフの後端に取り付けられているので、信号待ちや渋滞などで小さいクルマやバイクが後ろにピッタリ付いていると死角になるのは注意点だ。
とはいえ、周囲を様々なアングルで確認できる優秀な「3Dサラウンドカメラ」が視界の不安をすべて一掃してくれる。クルマから見た視点だけではなく、外側からクルマを見る視点も用意されているので、狭い駐車場や路地、林道などで身動きとれないような状況でも、冷静に脱出することができるだろう。さらに加えて、「オフロード」モードにするとボンネットを透視したように前方の地面の状況をスクリーンに表示することも可能となっている。日本の狭い道にはちょっと大きくて……といった不安やストレスは無用なのだ。
満タン給油での航続距離は900km以上の頼もしさ!
ところでこのロングドライブを行なったのは2022年8月中旬で、ちょうど東北地方では線状降水帯による豪雨被害が報道された直後。日程とルートの面でそれほどリスクはないと判断したのだが、それでも大館市から秋田市へと移動する途中から、大雨に見舞われてしまった。高速道路の路面も深い水たまりが随所に発生してハイドロプレーニング現象の見本市のような有り様となり、時おり路側帯に一時避難するクルマも散見された。
そんな地獄のような状況では、ディフェンダー110の直進安定性の高さと4WD制御が非常に心強い。ロングホイールベースと約2.4tの車重もあってどっしり安定した走りのままで、さすがに大きな水たまりでは緊張するが、大きくハンドルが取られることもなく、淡々と目的地までたどり着くことができた。
秋田市に泊まった翌日は、同行した友人を仙台に送り届け、その日のうちに小田原の自宅まで一気に走った。長距離を走っても肩こりなどの肉体的疲労は一切なく、トイレ休憩のみで帰れたのも、高級SUVとしてのディフェンダー110の実力の高さといえるだろう。
気になる燃費は、ワインディングを走り回った(とはいえジェントルな走り)区間では8.1km/Lまで落ち込んだものの、全行程1861.2kmを走り終えての総合燃費は11.1km/L。夏場なのでエアコン全開、とくにエコランは意識しないでの数値で、ボディサイズを考えれば上々だ。
燃料タンク容量が85Lもあるので、満タン状態での航続距離は900km以上。実際、1800km以上を走って給油は3回だけで済んだ。また、燃料価格が高騰している時期で、ディフェンダー110に補給した軽油とハイオクとの価格差は場所にもよるがリッターあたり30円近くもあった。表面上の燃費を運用コストの安さでカバーできるわけである。
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世界中の自動車メーカーが電動化を巡って右往左往している昨今。これまで燃費性能と環境性能を追求して進化してきたディーゼルエンジンは、いまやパフォーマンスにおいても官能性においても熟成の極みにあり、とりわけEVが苦手とするロングドライブでは圧倒的なアドバンテージを持っている。ディフェンダー110の「インジニウム」エンジンは、ディーゼルの可能性を強く感じさせてくれたのだった。