「ライトウェイトスポーツ」とは別の走りの楽しさがある
2022年でデビュー20周年を迎えたダイハツ「コペン」。2014年に登場した2代目へ2019年に追加された「GRスポーツ」は、トヨタとのコラボレーションで生み出されたスポーツグレードだ。自分は過去にユーノス・ロードスターやホンダ・ビートを所有してきたライトウェイト・オープン好きだが、じつはなぜかコペンはこれまで乗ったことがなく、今回が初試乗となる。正直、褒めるところ無かったらどうしよう? しかしそう思っていたのはまったくの杞憂で、おのれの不明をいたく恥じ入る結果となった。
元ロードスター&ビート乗りが送る正直レポート
20年前に初代コペンがデビューしたときはまだ免許取りたての学生で、「電動ハードトップの一点豪華主義」という潔いコンセプトと愛嬌あるデザインにひかれ、カタログをしげしげと眺めていた記憶がある。結局、学生ふぜいが新車で買えるわけもなく、クラシック・ビートル(丸目つながり?)、ネットオークションで10万円だったユーノス・ロードスターなどなど乗り継ぎ、2年前まではホンダ・ビートを5年ほど愛車としていた。カーメディアに携わるようになってから古今東西のさまざまなオープンカーに触れてきたものの、不思議とコペンに乗る機会がないまま現在に至る次第だ。
今回、AMW編集部で全員が試乗インプレする企画の第1弾がコペンGRスポーツとなった。ところが困ったことに、これに試乗する半月前、ホンダの「S660モデューロXバージョンZ」という、軽のライトウェイトオープンスポーツとして俊敏な走りを極めつくしたようなクルマを乗り回して試乗インプレ記事を書いたばかり。いやあこれ、コペンには申し訳ないけど、「良いとこ探し」が難しいんじゃないかなぁ……と、ものすごく不安な心もちで試乗車を受け取ったのだった。
これはむしろ「クーペ・カブリオレ」! 近いのはルノー「ウインド」
しかしコペンGRスポーツのシートに座り、さっそく電動リトラクタブルハードトップ(コペンでは「アクティブハードトップ」と呼ぶ)をオープンにしてキーをひねり、いわゆる官能性とは真逆な「ブーン」と響く実直そのもののエンジン音を聞いたら、すぐに分かった。「軽のオープンカー」だからビートやS660のような「ライトウェイトスポーツ」と比較されがちだが、むしろ欧州車でかつて流行した電動ハードトップ車「CC(クーペ・カブリオレ)」の系譜に連なるのがコペンなのだ、と。
電動ハードトップの歴史は、1930年代フランスで歯科医ジョルジュ・ポーランが考案した機構をプジョーが採用し、「Cエクリプス」と名づけ生産した故事までさかのぼる。バブル期にはトヨタ「ソアラ・エアロキャビン」やホンダ「CR-Xデルソル」などもあったが、電動ハードトップという装備を決定的に普及させたのは、1996年にメルセデス・ベンツが発売した「SLK」だ。
そして2000年に登場したプジョー「206CC」が、FFハッチバックの大衆車に電動リトラクタブルハードトップを採用して大ヒット。「307CC」、「207CC」とラインアップを連ね、ライバルのルノーも対抗して「メガーヌCC」を2003年に投入し、2004年にオペル「ティグラ・ツイントップ」、2005年に日産が欧州生産の「マイクラC+C」、2006年には三菱「コルトCZC」(日本未上陸)、フォルクスワーゲン「イオス」、ボルボがピニンファリーナと共同出資した「C70」などなど、2000年代は電動ハードトップの全盛期といえる時代だった。コペンが生まれたのも、ちょうどそんな時代だったのだ。
ところが欧州では、これらのモデルを手がけていたコーチビルダーやパーツサプライヤーが2008年秋のリーマンショックで軒並み大打撃を受けて倒産したり買収されたといったこともあり、現在では電動ハードトップがほとんど高級車の専用装備のようになってしまった。そう、われらがコペンこそ、ギミック感あふれる贅沢装備を大衆に提供し続けている偉大な例外というわけだ。
2+2シーターでもなくふたり乗りのFFで電動ハードトップという、コペン独特のパッケージングに一番近いのは、ルノーが2010年から2013年まで販売していた「ウインド」だろう。実際に乗った記憶では、ルノーの1.6L直4 NA独特の「ブォーオ」と響くトルク型エンジンで、絶対的な速度ではなく、日常的に気持ちよいオープンカーライフを楽しめるクルマだった。コペンはS660やロードスターよりも、こちらと相通じるクーペ・カブリオレの世界観なのだと理解すれば、腰高なスタイリングも含めて、すべてに合点がいくのだった。
ボディ剛性と足まわりをスポーティにした「GRスポーツ」
さて、コペンのノーマル仕様にはまったく乗ったことがないので、試乗の前提知識として、GRスポーツ独自の装備を確認しておこう。「GRヤリス」はじめGRシリーズと共通のアイコン「ファンクショナル マトリックス」グリルをまとったフロントバンパーは、トヨタお得意の空力性能も自慢。リヤバンパーにもディフューザー形状が与えられている。
最大の売りはボディ剛性と足まわりだ。フロア下に専用のブレースを装着して剛性をアップするとともに、リヤアクスル前方にはリヤの揚力を抑制する「スパッツ」を奢っている。KYB製の専用ショックアブソーバーはあえて減衰力を低めた「しなやか」志向で、ハード志向の「コペンS」と対極の位置づけとなっている。電動パワステも専用チューンで、5速MT仕様には「スーパーLSD」も備わる。ただし今回乗ったのはCVT仕様だ。
ワインディングで予想を裏切る気持ちよさを体感!
街中を流している分にはごく普通の軽自動車の、足が少し硬めな乗り味といった印象だ。はじめオープンにしていたものの、渋滞にはまっていると寒くなってきたのでクローズに。電動ルーフの開閉は約20秒で、信号待ちの間に余裕で切り替えられるのはありがたい。マツダ「ロードスター」現行型のソフトトップはよくできているので座ったままでも軽々と開閉できるが、それはそれ。電動でウイーンと動くカラクリ仕掛けだけで、ひとつのエンターテインメントなのだ。
屋根を閉めるとさすがに遮音性が高いものの、周波数によってはロードノイズが車内に大く反響するのがやや気になった。「軽だからこんなもの」と納得することもできるが、約238万円とすでに軽の粋を超えかかった価格ならば、もう少しプライスアップしてでも、上質感をプラスしてもいいかもしれない。
高速道路では空力性能と剛性アップのおかげだろう、直進安定性が高くステアリングフィールも落ち着いたもので、ロングドライブもさほど苦にならなそうだ。追い越し車線に入るときなどベタ踏みでパワーを使い切って走れるのも、軽ならではの愉悦というもの。
と、ここまでは「ふーん」くらいの印象だったのだが、山のワインディングに入ったとたんに超絶的、圧倒的な楽しさを味わうことになった。コペンGRスポーツのスイートスポットはまさにここ!
普通に乗るぶんには何の感動もない直3ターボエンジンも、4000rpm付近をキープして走ると力強く響いてくれるし、コーナーにアプローチするとステアリング切り始めからスーッとフロントがロールしていき、リヤもしっかり路面を捉えてくれる。路面が荒れてゴツゴツしたコーナーでも接地感を失わず、フラットな姿勢で曲がっていけるのがなんとも気持ちいいのだ。
慣れてくるにつれて、FFスポーツでの走り方を思い出し、適切な荷重移動ができるようになればなるほど道に吸いつくようなコーナリングを味わえる。ドライビング技術の基本を学んで上達を実感していけるという意味では、「GR」シリーズのエントリーモデルと位置づけられているのも納得だ。
ただしブレーキはごく普通の「軽のブレーキ」で制動力が心もとない。もしオーナーになれば、真っ先にブレーキを強化したいところ。そんな不安もあって、それほど攻め込むことはなく、先日乗ったS660と比較すればコーナーでの速度域はかなり低いのだが、走りの楽しさそのものは十分以上といえる。このような性格だから、5速MTではなく今回乗ったCVT+パドルシフト仕様で十分に思えた。
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ちなみにコペンは電動リトラクタブルハードトップでありながら、屋根を閉めた状態ならリヤのラゲッジスペースは258Lも確保できる(オープン時は44L)。現行型ロードスターが130Lなので、デイリーカーとしての使い勝手の良さはオープンカーとしてはピカイチ。ふたり乗車での旅行も難なくこなせる。
ハードトップの快適さとオープンカーの気持ちよさを両方とも味わえる、欧州流「クーペ・カブリオレ」が日本のガラパゴス規格「軽自動車」として生き残って、こうして多くの人のカーライフを豊かにしているのは誇るべきことだろう。そこにニュル仕込みのチューニングを施してスポーツドライブの喜びを増したのが、コペンGRスポーツというわけだ。