すでに完売!? 状態のフェラーリ製SUV
発表されたばかり、未だ試乗どころか実物を間近に見るチャンスさえままならないフェラーリ「プロサングエ」が予約受注で大変なことになっているらしい。よほどの購入実績のない限り今から納車の列に並ぶことは困難で、希望があるとすれば「次のパワートレーンを積んでから」だとまことしやかに囁かれている。要するに12気筒自然吸気エンジンを積んだモデルは、生産前からほぼ完売状態というわけだった。
4ドアで背が高いこと以外は保守的な「フェラーリのGT」
フェラーリ初の4ドアモデルはとりあえずマーケットから熱狂的に受け入れられたというわけだ。マラネッロの首脳陣は「想像以上だ」とコメントしたが、もちろん彼らも自信はあったはず。4ドアやSUVタイプを望む声に後押しされて実現した企画であることもまた事実だったのだから。
SUV(だとはマラネッロは決して言わないが)なのだから、(他のブランド、例えばランボルギーニのように)たくさん売ってたくさん儲ければいいのに、と思われるかもしれないが、少なくとも12気筒のプロサングエは大量生産品ではない。「1パーソン1エンジン」で手組み生産される至極のV12の生産にはどうしても限界があるからだ。逆にいうと、V12以外のパワートレーンとなった時、生産台数は増えそうだがそれはさておき……。
見事な戦略と言うべきだろう。まずは12気筒エンジンを積むことでプロサングエを文字通り「フェラーリの純血種(サラブレッド=プロサングエ)」であると世間に認めさせた。もちろんエンジンだけじゃない。内燃機関を完全にフロントミドシップとしたSUVは他になく、革新的なサスペンションシステムを採用することで、背の高い4ドアモデルでも従来の2+2モデルと遜色ないパフォーマンスを実現するという。
要するにフェラーリとして見事に成立させた。4ドアであることと車高が高いこと以外、じつはフェラーリの保守的なGTカーであると言っていい。加えて12気筒エンジン搭載という希少性がある。欲しいと思っても買えないという状況が発売前に出来上がってしまった。これで、次のパワートレーンがなんであろうと(おそらくプラグインハイブリッドだろう)、「プロサングエ2」は人気を博し、多くのファンが我先に飛びつくことは必至。マラネッロの4ドア戦略はかくして先頭で1コーナーをクリアしたというわけだ。
果たしてスーパーSUVは順風満帆な存在なのだろうか
迎え討つ既存のスーパーSUVは、プロサングエがデビューする前からすでに対抗手段をとっている。アストンマーティンは707馬力のAMGユニットを積む「DBX707」を、ランボルギーニはV8ツインターボの出力を666馬力にまで引き上げた「ウルスS」および「ペルフォルマンテ」を、それぞれ発表した。
実績のあるモデルゆえ、そしてプロサングエの生産規模が小さかったため、引き続き彼らにも勝機はあるだろう。とくにランボルギーニはすでに向こう2、3年分くらいの予約注文を受けており、現在、申し込みベースでさえ販売するモデルがないという絶好調ぶりだ。
こうなってくると気になるのは未だピュアなスポーツカーメーカーとして唯一残ったマクラーレンの動静だ。2022年7月にマクラーレン・オートモーティブのCEOに就任したミハエル・ライターズは、ポルシェでは「カイエン」を、そしてフェラーリで「プロサングエ」の開発に関わったエンジニア出身のトップである。独自に開発するのか、もしくはどこかと組むのか、様々な憶測が流れているものの、情報を総合的に判断すれば「将来的にSUVはあり」だろう。
問題はそのタイミングだが、それこそ開発の方法論によって決まると思う。個人的には現在のマクラーレン製スーパーカーのように走る、つまりはカーボンモノコックを持つハイライダーモデルも見てみたいけれど……。
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ただ、SUV一辺倒には疑問もある。もとより電動化が進み、重いバッテリーの搭載位置や比車重を考えたとき、SUVが有利であることは論を待たない。世の中の普通の乗用車が軒並みSUV化しているとなれば尚更だ。けれども一方で、そもそも重くて大きなSUVの存在そのものが、たかだか70kgしかない物体(人間)を運ぶのに必要なのかどうかという根本的な問題を抱えている。2トン超級のスーパーSUVとなれば何をか言わんや。
自動車メーカーは人々の欲望にどこまで付き合うのだろうか。ひとつだけ言えることがある。我々はどこまでも突き進むわけにはいかないのだ。