軽オープンスポーツカーの進化に驚愕
ダイハツ・コペンがデビューした2002年、自分は小学5年生だった。当時のTVCMだった「オーシャンビュー篇」は今でも鮮明に覚えている。海沿いの切り立った崖にポツンと置かれたコペンに空撮で迫って行けば、金髪のお姉さんがコペンのルーフをオープン。するとTUBEの“風に揺れるtomorrow”が流れる。子どもながら「軽自動車で電動オープンってすごい」と思ったのを記憶している。
歳を重ねるにつれて、その記憶は片隅に追いやられてしまい、免許取得後に平成のABCトリオと言われる「C」にあたるスズキ・カプチーノを購入した私。3年ほどだったが所有した経歴がある。そんな自分なので、遠い記憶だがカプチーノとの比較にならざるを得ない最新軽スポーツカー「コペンGRスポーツ」に乗った印象をレポートしていこう。
室内に小物スペースがあることに感動!
今回AMW編集部が借りたモデルは2019年にTOYOTA GAZOO Racingのブランド「GR」とコラボレーションし誕生した「コペンGRスポーツ」だ。久々に対面した軽オープンモデルは、どこか懐かしく、見ているだけで気分が盛り上がる。
キーで施錠を解除し、前後に短いドアを開けると、いきなり嬉しいポイントがあった。平成のこの手のクルマには収納スペースがなかったよなぁと。ビートはもちろんカプチーノにもなかった左右にドアポケットがあることに即座に感動。スマホや小銭入れなどを収納するのに丁度いいスペースなだけに、いきなり羨ましいと感じてしまう。
ハンドルはMOMOにレカロシートかぁ……と、ずっと愛でていられそうなので、とっとと乗り込む。そこでもまた、やや乗り降りがしにくいがスポーツカーに乗るのだ! という気持ちにさせられる。エンジンをかけてまずはルーフクローズドのまま走行してみた。
ありきたりで申し訳ないが最初の印象は「快適」そのもの。低回転域からターボが利くため乗りやすい。しかも当たり前だが、カプチーノよりも速い。音こそ軽自動車の3気筒+CVTといった組み合わせのため「ぶぃぃぃ~ん」という感じだが、ハンドルを握ってしまえばそんなのは気にならない。
軽自動車とは思えぬ剛性に驚き!
GRコペンには、赤塗装されたコイルスプリングを組み合わせる、専用チューニングショックアブソーバーが採用されている。走行中は路面の凹凸で屋根がギシギシミシミシとキシミ音がするわけでもなく、適度に硬めの乗り味も剛性感があると感じられた。1990年代のクルマにありがちな“ゆるさ”がなくなっていたことにも驚いた。
しばらく走らせていると、峠に持ち込めたらさらに楽しいだろうなというドライビングフィールが、ヒシヒシと伝わってきた。舵角応答性もよく、CVTも相まって、誤解を恐れずに言えばゴーカートのような感覚で楽しい。
あまりの興奮っぷりに熱が発散されていったのか、車内が曇ってきたので信号待ちでエアコンのスイッチを押して走ることにした。排気量も馬力も小さいクルマはパワーが落ちる上に、エアコンをONにした状態でエンジンを高回転まで回すと負荷がかかりすぎて壊れかねないよ、という情報を耳にしていたので、カプチーノの所有時は数回しか使用したことがなかったエアコンだったけれど……。
そんなこともあり信号が変わり、なぜかドキドキしながらアクセルを踏み込むも、そんな心配は全く無用。出足も悪くなく、あっという間に流れに乗ることができたのだ。……と思ったところで、そういえばホンダS660のMT車に試乗したときも、そこまで気にならなかったことを思い出したので、やはり現代の技術をあらためて痛感した。
クローズドのままなら2名乗車でも使い勝手抜群!
ラゲッジスペースも確認をしておこう。クローズド状態では、ゴルフバッグをまるっと飲み込む広さで、軽オープンカーとは思えぬ容量だ。カプチーノのときは、25Lボストンバッグがギリギリ2個詰める程度。しかも、オープンにすると屋根をトランクに収納するため荷室はゼロ。当時付き合っていた彼女の膝の上に荷物を置いていたなんてしょっちゅうだった。
それに対して、コペンGRスポーツはオープンにすると、リュックサックが2個入る程度の狭さにはなるもののそれでもスペースは残り、2名乗車で同乗者の膝の上に乗せるようなことがないのが嬉しい。クローズドなら普段遣いもできるし、買い物もOKな優秀すぎるモデルとなっていた。
しかも、だ。トランクにはイージークローザー機能が付いており、フードを下に軽く押さえつけると「うぃぃ〜ん、かちゃん」と閉まってくれる。カプチーノはトランクがスチール製だったため、凹まないために気を使ったことも思い出した。コペンGRスポーツ、やるなぁ!
ただし、運転席と助手席の間には冊子をいれるようなネットしかない。屋根を収納するうえで、仕方ないのかもしれないが、カプチーノときは、シートバックスペースが意外にも使えたことを思い出した。
また、平成初期の軽自動車だからと言われればそれまでだが、飲み物の収納にはかなり苦労したカプチーノだったが、コペンGRスポーツにはセンターコンソールにドリンクホルダーが用意。これには感動した。当時の軽オープンカーの不満要素が改善されしっかり盛り込まれているのだから嬉しい。
屋根が開くだけでいつも通る道が違う道になる
撮影を済ませ、屋根を開けるタイミングがやってきた。軽自動車唯一の電動ルーフ機構を備えたコペンは、センターコンソールにあるスイッチを引くと「うぃぃ~ん」という音とともにオープンになる。昔はクルマから降りて3分割の屋根を外し、Cピラーを格納したのが懐かしい……と思っている間にフルオープンに。さすがに外気温が13度ということもあり、寒い。
信号待ちの北風こそ冷たいが、足元のヒーターを全開にし、軽くお台場周辺を流しつつ、行きと同じ道で編集部に戻ることにした。なぜかクローズドのときは、アクセルを踏み気味で走りたい! と思ったのが、オープンにしたことでゆっくりと流したいという気持ちになった。
同じルートを戻っているだけなのに「あれ? さっきこんな看板あったけ? あれ? こんな道通ったけ?」なんて、感じるのはオープンカーが演出してくれる開放感なのだろうか。同じ道なのに、味変をしたような感覚にさせてくれた。
開放感を楽しみつつ、30km/h区間から50km/h区間に変わり、グッとアクセルを踏み込み走る。運転しているダイレクト感が窓を締めているため風の巻き込みはゼロだったが、胴長の身長のせいか、ルーフギリギリの頭の天辺が寒かったのは毛量が少ないからなのか……検証が必要だ。
なんてことを思っていたら急に北風が頭上を吹く。そうだ! と思い出し、シートヒーターのスイッチを押す。おおおおおおお! あたたか~い。ヒートテックを着込んで手袋をしていた時代が懐かしく感じられた。これは最高すぎると喜んでいたところに、頬が緩んでニヤニヤしていたんだろう。歩道を歩いている若い男女に笑われた。きっと“もらい笑顔”になったに違いないと都合よく解釈しつつ、実際、本当にシートの暖かさは良かったのだ。
平成のABCトリオもデビューから30年が経過した。ネオクラシックと呼ばれる部類に入り、部品供給の問題やそもそも程度のいい個体が少なかったりするため、気軽に手を出しにくくなってきた。
一方で、カプチーノを例にあげると新車価格が150〜160万円。安全装備はもちろん、シートヒーターやドリンクホルダーなどがないことを考えると、コペンGRスポーツは新車価格こそ238万円(CVTモデル)と高額に見えるが、ライトチューン済みで、軽自動車という小さい枠内にスポーツ要素+普段遣い+オープンという旨みを凝縮させているのだから、リーズナブルではないだろうか。
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今回の試乗であらためて、軽オープンスポーツカーの進化に感動させられた。なにより、GRコペンを走らせると、いつも通る道なのにときめきを与えてくれるのだ。返却をして1週間以上経つが、もう1度ちゃんと向き合いたいとも思う今日この頃だった。